

日本の介護保険のビッグデータは、世界的に見ても宝の山。
それを学習し、最適な介護プランを瞬時に作れるAI(人工知能)の開発プロジェクトが始まっている。取り組むのはベンチャー企業シーディーアイと米スタンフォード大学の人工知能研究者、ギドー・プジオル博士だ。
シーディーアイの岡本茂雄CEOは東京大学医学部を卒業後、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に出会ったことをきっかけに、さまざまな企業で介護の質の向上に執念を燃やしてきた。ある会合でAI技術の医療・介護への応用を研究していたプジオル氏に会い、「日本では介護保険データが豊富にあり、個々のケアマネジャーもノウハウを持っている。だが、体系化されておらず社会全体の知恵になっていない」と訴えた。すると、プジオル氏はこう応じた。
「データをAIに学習させれば、より良い介護プランを瞬時に作れる。高齢者の健康状態を改善しながら社会保障費の削減もできれば、世界中できっと役に立つ。一緒にやりましょう」
目指すのは、ケアマネとAIがこんなやりとりをする世界だ。
「この介護プランの改善点は?」「毎日の歩行訓練をプラスすれば、転倒リスクを70%削減できます」「車いすを使うと?」「同様の2万3千件のケースを調べたところ、歩行器と理学療法の組み合わせで状況は93%改善します。車いすでは34%しか改善しないでしょう」「1年後の将来予測は?」「こちらです」
ケアマネの仕事をAIが代替するのではなく、AIが「有能な秘書」のようにケアマネを補助するイメージだ。
プロジェクトの実証実験には昨年、愛知県豊橋市が手を挙げ、同市の10万件分の介護保険データを提供。「ゼロ歳のAIが誕生した」(岡本さん)。実験にはケアマネ33人が参加。思いがけない事例も出てきた。
例えばAIが認知症の人について、従来のプランにはなかったショートステイの利用を提示したケース。ケアマネには予想外だったが、実際に採り入れてみると、昼夜逆転気味だった生活にリズムが生まれた。自分の案とAIの案が一致すると自信が出ると話すケアマネもいた。