国立情報学研究所の新井紀子教授の著書、『AI vs.教科書が読めない子どもたち』の中では、「就学補助率が高い学校ほど読解能力値の平均が低い」という気になる調査結果も指摘されている。言い換えれば貧困が読解力にマイナスの影響を与えているかもしれないということだが、貧困家庭の子どもたちの学習支援の現場では何が見えているのか。
東京・八王子で経済的に苦しい家庭の子どもたち向けに無料塾を運営しているNPO法人八王子つばめ塾の理事長、小宮位之(たかゆき)さんは、こう話す。
「つばめ塾でも、数学の連立方程式なら解けるのに文章題になったらできない。これは応用力ではなく読解力の問題だね、と話題になっています。また、主語、述語があるひとつの文章の形で話すことができず、『先生』『授業』など、単語のブツ切れで話したりLINEをしたりする。文章を構築できない子もいます」
八王子つばめ塾は、90人の生徒が在籍、社会人や学生のボランティア講師70人が指導に当たっている。生徒は、中高生が対象だが、9割は中学生。中でも、中3、高3の受験期の子どもたちが多い。
小宮さんは「これはあくまでも推論ですが」と前置きしつつ、もし貧困と関係があるとしたら、親をはじめとする他者との関わりが少ないことに原因があるかもしれないと言う。
「一般家庭と貧困家庭では、親とのコミュニケーション量が違います。親と過ごす時間が少ないと、ユーチューブで好きなコンテンツをずっと見続けるなど、自分の世界にこもりがち。未知の世界に触れる機会が少なくなり、そうすると何かを読み解くという要素が日常生活から減るのではないでしょうか」
そしてこう続ける。
「家族の中での会話量が大事。親の長時間労働が問題ということです」
一般的な塾は「先生─生徒」という「タテの関係」だが、無料塾には「近所のボランティアのおじさん、おばさんや学生が教える」という「ナナメの関係」が存在する。それは未知の世界に触れる機会にもなるという。