ただ、えみるのこともあり、次女のふみねにはこれ以上何かを背負わせたくない。だから、僕と妻が死んだあと、ふみねがこころとしっかり生きていけるようにしてやらないといけないと思っていました。たとえば僕が店を開いて、2人に技術をしっかり教えてあげれば生きていけるかな、と考えたりね。
不安があったからこそ、毎日考えるわけです。気がつくと、事故の日以来、初めて真剣に未来のことを考えていた。えみるの死後、一時は「人生どうでもいいや」と思っていた自分が、「人生どうにかしなきゃ」という思いになっていました。きっとうつむいてばかりいた僕たちに、天国のえみるが「前を向いて」と背中を押すためにこころを授けてくれたと思うんです。いつのまにか家族全員が、未来に向かって歩いていました。
ダウン症のお子さんを持つ親御さんにも会いましたが、「障害ではなく個性」と口をそろえ、みなさん明るく強く育てていらっしゃった。「僕たちも強くならなければいけないな」と前を向くことができた。きっとこころが、みなさんと出会わせてくれたのでしょう。こころは、僕らを強くして、そっと空にかえっていきました。
今でも家族の中に悲しみのほうが大きく広がってしまうときもあります。でも、今は人生は死んだときで終わりじゃないと思えるからがんばれる。僕は死んだ後、天国でえみるとこころに会って、たくさんお土産話をしてあげたい。そして、2人に「がんばったね」と言ってもらいたい。亡くなった2人が、僕の生きる力になってくれているんです。(構成/編集部・深澤友紀)
※AERA 2018年4月9日号
わが子の臓器が5人を支えている 脳死下臓器提供を経験した家族が、いま願うこと