刑事訴追の恐れがあるとの理由で証言拒否を繰り返す一方で、安倍晋三首相夫妻や官邸の指示は全くなかったと断言する──。その様子は1年前、理財局長時代の国会答弁のデジャヴ(既視感)のようだった。
学校法人森友学園への国有地売却に絡む文書改竄(かいざん)の責任者として、約5千万円の退職金とともに国税庁長官を辞任した佐川宣寿(のぶひさ)氏(60)。衆参両院での証人喚問では、何も解明されなかった。涙目で泥舟をこぐ佐川氏は寄りかかる大樹を探しているだけで、その視線の先に国民は映っていない。茶番はいつまで続くのか。
証人喚問翌日の3月28日には2018年度予算が参院本会議で成立した。こう安堵(あんど)する政府関係者もいた。
「予算が通ってしばらく凪(なぎ)になる。佐川氏が全部背負ってくれたお陰で麻生太郎財務相延命の目も出てきた。ただし危機感はあるので4月に局面打開策として内閣改造の可能性はある」
野党6党は安倍昭恵首相夫人や経済産業省から夫人付政府職員として派遣されていた谷査恵子氏の証人喚問を今後も求める方針を確認し、衆参予算委員会の集中審議の開催も求めているが、与党はいずれにも応じない姿勢。4月中旬には安倍首相が訪米してトランプ大統領と会談、5月には日中韓首脳会談と訪ロしてのプーチン大統領との会談と、外交日程が続く。
しかし、そもそも改竄前の文書が広く周知されたら、首相夫妻や官邸が売却に関与していたことを印象づける可能性が濃厚だったからこそ、エリート官僚が刑事罰に問われかねない文書改竄に手を染めたのではないか。市井の隅々まで浸透しているこの疑念は佐川氏の喚問でしぼむどころか、針先が触れたら破裂寸前にまで膨張してしまった。
佐川氏は法外に安い売却で国に最大約8億円相当の損害を与えた背任に絡む証拠隠滅容疑で告発され、捜査を進める大阪地検特捜部は近く佐川氏を事情聴取するとみられている。だが、年度末の官公庁の異動の混乱を避けるため、4月中旬まで後ろ倒しになりそうだ。そしてそもそも、特捜部と国税庁との密接な関係性を危惧する声もある。