その一人、長野市在住の筒井幸彦さん(72)は以前は41年間、警察官として勤務した。自動車やバイクが好きで3級整備士資格も持つ。
現在は山葡萄の蔓(つる)でつくる籠バッグ作家として、年間約30個の作品を製作している。使い込むほど艶が出てしなやかになる籠は、孫の代まで使い継がれると言われるほど丈夫だ。価格は4万~6万円に設定している。
筒井さんは50歳を過ぎてから籠バッグ作りを始めた。きっかけは、籠作りのために福島県に修業に行った娘に、材料となる皮を送ったことだ。試しに籠作りをしてみたところ、ハマってしまった。
それから20年間、材料集めから編みあげまで、ひとりで完結させている。受注生産をしており、県外から自宅の工房に顧客が訪ねてくることも。突然の訪問でも温かく迎え入れる。
「形や大きさを含めた製作過程を確認し合うので親しくなります。山葡萄の山まで見に来る方もいますよ」(筒井さん)
山葡萄は里山にはないため、山の奥まで歩いていく。蔓を採るのに10メートル以上は木に登るが、その周りには「クマ棚」というクマが木の上に登った時に小枝を集めた形跡を見かけることもある。
大切にしていることは人間関係と、趣味をもつことだ。人と交流し、自分の世界を広げることが、何らかの形で仕事にもつながる可能性があると考えている筒井さん。籠の補修の依頼やリピーターもいるのは、その結果なのかもしれない。(編集部・小野ヒデコ)
※AERA 2018年4月2日号