ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
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(c)朝日新聞社
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 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

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 2週続けて、国立情報学研究所の新井紀子教授のお書きになった『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)のお話をして参りましたところ、「ではどうやったら、これから生き残れるのでしょうか」という切実というか、お手軽というか、そんなもん自分で考えろ!!といった質問をたくさんいただきました(笑)。断るのもなんなので、私の周りにいる、絶対にAI(人工知能)に負けない人々をご紹介しようと思います。

 なじみのある岩手県盛岡市には、日本ではここでしか買えないイタリアのハンドメイドの靴を売る、菅原靴店という老舗の靴屋がございます。ベルルッティほど高くはなく、しかし極めて優良な品質の靴が手に入ります。彼が仕入れるイタリアの靴職人の何人かには大手百貨店のバイヤーが何回も訪ねていますが取引しないのです。菅原君としか自分たちは商売しないと決めている。その決め手は菅原君の「目利き」にあると言っていいと思います。信用できる人としか自分たちの作ったものは扱わせたくないという気持ちはなんとなくわかりますよね。

 築地市場も同じですね。魚というものは漁師から新鮮なものさえ買えば美味しい、というものではありません。これはいい、これはだめ、という目利きがいてお寿司屋さんなどは成り立つのです。今回の移転でそうした目利きができる多くの仲買人が廃業するという話を聞くにつけ、これは日本文化の衰退ではないかと思うわけですね。

 最後に残るものは何か。個人的にはビジネスのノウハウなんだろうと思います。要するに、金儲けですね。こればっかりはたぶんAIにはまねできないでしょう。高速株式売買はいくらでもできて、すでにアメリカでは株式取引の8割はAIと言われていますが、駆け引きばかりは人間に勝てそうもありません。だって、騙す騙されるという世界はAIにはまったく無縁ですよね。彼らの世界は統計と確率なんですから。

 その意味では振り込め詐欺などの犯罪をやっている人たちは最先端を行っている……と言えなくもなく、いや、そりゃまずいだろ的な話になるわけですね。要するに、Believe your force(あなたの力を信じなさい)ということで何だか危ない結論ですね(笑)。

AERA 2018年3月12日号