田平さん自身、1993年に初めて訪れた世界最大の子ども映画祭「キンダー・フィルムフェスト・ベルリン」で目にした光景が忘れられない。レッドカーペットを子どもたちが歩き、上映が終わるとディスカッションが始まり、我先にと手が挙がる。現在、キネコ国際映画祭では声優たちがその場で吹き替えをする「生吹き替え上映」をメインに、1歳から楽しめるプログラムも用意している。

「小さな頃から、さまざまな国の色合いのバランスやストーリー、匂いといったものを身近に感じたら、必ずしも映画でなくても、将来的な幅が広がるようになるんじゃないかな」(同)

 昨年11月に行われた第25回キネコ国際映画祭は、過去最高の13万人を動員。一方で、小規模ながらも着実にファンを獲得している親子上映会もある。

「子どもたちの習い事のなかに“映画”があってもいいよね」

「ちいさなひとのえいががっこう」は、そんな思いから2005年にスタート。良質なアジアの作品を紹介してきた映画祭「東京フィルメックス」の運営に携わる岡崎匡さんを中心に、年6回ほど開催する。

 子どもたちが抱いた疑問がその場で解消されるよう、上映中も「映画に関わる話ならしてもいい」がルール。

 13年からは、上映した作品の舞台となった国で生まれ育ったゲストを招き、話を聞く「映画で世界一周!」という取り組みも始めている。「映画を窓に、向こうの世界について知る」スタイルは、まさに映画祭のQ&Aのイメージだ。なかには毎回、「その国で最も強い動物は?」と尋ねる子もいるとか。

「子どもたちが知りたいことと大人が教えたいことは必ずしも一致しない。でもそこが面白い」(岡崎さん)

 子どもたちと話したイラン人の監督は、

「子どもたちの質問はどれも、シンプルだけれど深い」

 と口にしていたという。

 岡崎さんは言う。

「映画は誰にでも親しみやすいものですが、その先にある世界はとてつもなく広いと思うんです」

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2018年2月12日号