「当院は20年近く前から“キャンサーボード”といって患者の状態や治療方針を各部門のスタッフで共有する仕組みがあります。カンファレンスには大勢が参加するので大変時間がかかりますが、これが外科の手術に余裕を生むのです」
治療においては当然、技術は重要だ。しかし上野医師は「技術だけでは足りない」という思いを年々強くしているという。
「患者さんに対して、本当に自分の家族のような気持ちで診られる環境を手術の前につくっておきたいと思っています。その気持ちがないと日々の手術がただの流れ作業になり、集中力も続かなくなるかもしれない。『この人はおうちでこういう人の世話をしているんだな』とか『これからどんなふうに生きていくのかな』といったことを考えていると、自然と最大限の注意を払いますからね」
患者との話が長引くのも、プロであるが故なのだ。(ライター・大塚玲子)
※AERA 2018年2月12日号より抜粋