

福祉、医療、環境、地域活性化などの分野で、社会が抱える課題をビジネスの力で解決しようと立ち上がる、社会起業家が増えている。彼らが手掛ける事業は「ソーシャルビジネス」、生み出す変化は「ソーシャルイノベーション」などと呼ばれる。最近では、霞が関を飛び出してソーシャルイノベーションに取り組む社会起業家も登場した。
【廃棄されるあんぽ柿の皮を使って何か商品ができないか試案中】
その一人が、福島県で農業や観光などの地方づくり事業を手掛ける、陽(ひ)と人(びと)社長の小林味愛(みあい)さん(30)だ。
慶應義塾大学法学部政治学科で政治に興味を持ち、衆議院調査局に入局。社会人1年目の年に東日本大震災が起きた。原発事故による避難などで人がいなくなった町が、日本の地方がこれから直面する課題を体現しているように思えたという。
復興関連の会合に参加したり、休日に被災地にがれき拾いのボランティアに出かけたり。やがて、国家公務員としての限界を感じ始める。
「どうしたら本当に地域を活性化できるのか知りたかった。もっと『本音で語ろうぜ』って。そのためには国家公務員じゃないほうがいいと思ったんです」(小林さん)
転職先として選んだのは日本総合研究所だ。観光振興や中小企業の販路開拓などで全国各地を飛び回った。ものごとは会議室では決まらないと実感。きれいに整理された資料を眺めるより、お酒を飲みながら語り合うことで地域が抱える課題が見えたし、信頼関係が築けた。行政に対するグチや不満にもヒントは多かった。
そんな中でもいつも心の中心にあったのは福島のことだ。
コンサルティングだけではいつまでも部外者。復興や経済のためには、現地でプレーヤーとなる若い人が必要だと思い、昨年8月、福島に居を構え、陽と人を起業した。
いまは、廃棄される桃を原料にしたコスメを開発中。同様に廃棄されるあんぽ柿の皮を使って何か商品ができないか、とも試案中だ。農家を訪ねてじっくり話を聞くことから生まれたプロジェクトだという。