姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
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北朝鮮の平昌オリンピック参加は政治の舞台でもある(※写真はイメージ)
北朝鮮の平昌オリンピック参加は政治の舞台でもある(※写真はイメージ)

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 北朝鮮側の平昌(ピョンチャン)オリンピック参加が大きくクローズアップされています。一見、北朝鮮の平和的攻勢のような対応は大きな変化を起こしたかのように見えますが、今回の参加表明は予定通りの決定だったと思っています。

 平昌オリンピックの開催が決まったのは2011年でした。その年に金正日(キムジョンイル)氏が亡くなっています。金正恩(ジョンウン)氏は当然、後継者になるわけですから、この平昌オリンピックが決まった時点でどうやって権力を握っていくのか、北朝鮮建国以来の大きな国家的目標である核抑止力をどのように完成させるかというシナリオを描いたはずです。去年の一瀉千里(いっしゃせんり)で進んだ核開発は目標であった平昌オリンピックを見据えてのことでしょう。

 金正恩氏の1月冒頭の「新年の辞」では人民服を着用していませんでした。あるジャーナリズムの言葉を借りれば、「アルマーニのスーツを着た銀行員風でメガネのフレームはべっこう」。つまり、これまでとは考えられないほど今風ないでたちなのです。この3代目の政権はどういう意味があるのかということを、外見的なスタイルでシンボライズしていたと言えます。着目したのは、左胸に金日成(イルソン)氏と金正日氏のバッジがなかったことです。これは何を示唆するのか。自分に課された核の抑止という遺訓政治をやり遂げた、次はニューエイジが始まるよ、というメッセージです。そのニューエイジとは経済でしょう。

 小泉純一郎元首相とブッシュ元大統領が蜜月のころは、北朝鮮の米国の窓口への期待度は日本に向かっていました。今、北朝鮮は国際的な制裁を与えられている中で、平昌オリンピックを突破口に韓国を一つの通路にして米国に働きかけることになるかもしれません。北朝鮮の平昌オリンピック参加は政治の舞台でもあるのです。

 今、安倍政権が恐れていることは、米国が韓国を窓口にして北朝鮮と対話と交渉に入るのではないかということでしょう。もしそうなった場合、安倍外交の失態です。そうならないためにも、早急な日韓関係の改善は必要です。そのうえで二枚腰、三枚腰のしたたかな外交が求められます。

AERA 2018年1月29日号