昨春、久々に切手デザイナーの募集があるというニュースがネットを駆け巡った。なぜなら切手デザイナーは郵政民営化以来、8人を超えたことがない特別な職業だからだ。
【写真】61年から64年まで、東京五輪に向けて作られた寄付金付き切手
タテ・ヨコ数センチの小さなスペースに画像と文字を入れ、色調のバランスをとらなければならない。不特定多数の人が使うというハードルがあり、海外へ送るため国家の品格も背負う。通常の商業デザインと一線を画すのが切手デザインだ。
パソコンとメールの普及で手書きの習慣が減り、手紙離れが言われて久しい。だが、特殊切手の発行枚数は、2007年度の159種(2億7680万枚)から16年度の593種(11億4637万枚)へと、この10年で4倍以上に増えている。確かに、郵便局に行くと、いつでも多種多様なデザインの切手を買えるようになった。
こうした特殊切手のデザインも切手デザイナーの仕事だ。
近年は浮世絵など日本美術や建築を扱った伝統的デザインに加え、ミッフィーやスヌーピーなどのキャラクター、おむすび形のシール式切手など、ファンシーグッズのような切手も増えている。
そもそも切手とは何か。切手デザインの歴史と最近の動向について日本郵便切手・葉書室の主任切手デザイナー、玉木明さんに聞いた。各地で講演し、切手好きの“切手女子”にも知られた存在だ。
「切手は金券、紙幣の延長線上にあります。戦前はその考えが強く、デザインも重厚で荘厳です」(玉木さん、以下同)
日本で最初に発行された記念切手は「明治銀婚記念切手」(1894年)。明治天皇の大婚25周年を記念したものだ。戦前の切手は朝鮮半島や樺太、台湾まで日本の領土として黒く塗られた「第2回国勢調査記念」(1930年)、「鉄道70年記念」(42年)など国家事業に関するものが目立つ。
「第2次大戦後は49年の『こども博覧会記念』など子どもがモチーフとして登場します。僕はデザイナーなので、こうした切手のデザイナーは喜びを持って筆をとったのだろうと思うんです」