──性犯罪被害に遭った人は、「自分にも何か落ち度があったのでは」と自分を責めるケースがあると聞きます。

 私の場合、山口氏と最後に行った都内のすし屋を出てから、朝ホテルで激しい痛みで意識が戻るまでの記憶がありませんでした。なぜ覚えていないのか、なぜホテルについていったのか。記憶が抜けた部分が多かったので、理解できずすごく苦しみました。信頼していた人が急に犯罪者になるわけもなく、自分にも非があったんじゃないかと、何度も何度も考えました。それが私たちをホテルまで乗せたタクシー運転手の証言が取れたことで、自分がどういう行動をしていたかということに確信が持て、記憶の空白が埋まりました。

──真相追及の過程で日本の至る所に「ブラックボックス」があると発言されています。

 どの国にも、法のシステムの問題、司法の問題があると思います。ただこの件と向き合ってきた中で、警察や検察そのものにたくさんのブラックボックスが存在していることに気がつきました。昨年7月、山口氏を訴えた準強姦容疑の告訴に対し、東京地検は不起訴の判断を出しました。そこで今年5月に検察審査会に不服申し立てをしましたが、9月に「不起訴相当」の議決が出されました。私が訴えていた準強姦の被害は起訴できないという結果となったのです。

 その時感じたのは、検察審査会でどういう論議がなされ、どういう証拠を使って、何を根拠にそうなったのかということ。一切の説明がありませんでしたから。そもそも検察審査会は、検事が出した答えを再度見直し精査する場です。審査会には申立人や証人が呼ばれ、事情を聞かれることもありますが、私も弁護士も呼ばれることはありませんでした。せっかく不服を申し立てる機会が与えられるものなのに、ここでも説明がなければ理解に苦しみます。

──手記の中で、15年6月に、一度出た逮捕状が、逮捕当日になって執行が取りやめになったと書いています。

 これも、一体何があったかわからないことがたくさんあります。当時の警視庁刑事部長であった中村格氏によって逮捕が突然取りやめられたことが今年明らかになりました。執行取りやめの知らせの電話を受けた時、驚きと、次から次へと疑問がわきました。何かがおかしい、って。裁判所がいくつもの証拠と証言から判断し発行した逮捕状が、なぜ直前で差し止めになったのか。一度出た逮捕状が執行されないのは大変異例です。「なぜ逮捕を取りやめたのか」。中村氏に聞きたいと何度も取材を申し入れていますが、まだなんの回答もありません。

(聞き手・構成/編集部・野村昌二)

AERA 2017年11月13 日号より抜粋

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