性暴力被害を実名告白したジャーナリストの伊藤詩織さん。日本の至る所に「ブラックボックス」があるという。捜査の過程で、一体何があったか。
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──今回、手記『Black Box』(文藝春秋)の中ではじめて本名を公表しました。
みなさん、私のことを強い女性であるとか勇気があると言ってくださいますが、私はまったく強い人間ではありません。ただ、私の中で原動力となったのが、大切な友だちや妹のことを考えた時、彼らに同じことが起きたら自分が一生後悔すると思ったからです。私に起きたことは誰にも経験してほしくない。そのためにも、いま私が話さなければ、いま止めなければいけないと思ったんです。そのためには、顔も名前も出して告白しなければいけないと決めていました。
──世界中でレイプは報告されない傾向にあります。日本でも警察に相談に行くレイプ被害者は5%未満。伊藤さん自身、本名の公開に葛藤はなかったでしょうか。
「葛藤」、という意味ではありませんでした。ただ、家族から名字だけは伏せてほしいと言われ、ずっと明かしてきませんでした。しかし、手記を出すに当たって、名字を隠すことに違和感を覚え公表することに決めました。もう隠すことはない、と。ただ、両親に伝えると「ノー」と言われると思ったので、手記が出る2日くらい前に速達で「私は伊藤詩織として本を出します」と伝えました。最終的には理解してもらえました。
──性暴力は魂の殺人と言われます。TBS記者(当時)の山口敬之氏と2015年4月3日、都内で飲食した際に意識を失い性暴力を受けたと訴えられています。この2年半、どのような気持ちで過ごされたのでしょう。
私があの時感じたのは、自分の体、自分の心が誰かに乗っ取られてコントロールされたという恐怖でした。レイプされたことによって、自分が自分じゃなくなってしまった、という気持ちに陥りました。今も山口氏と似た風貌の人を見ただけで、あの日のことがフラッシュバックしますし、悪い夢もよく見ます。