子どもの頃読んで忘れられない本、学生時代に影響を受けた本、社会人として共鳴した本……。本との出会い・つきあい方は人それぞれ。各界で活躍する方々に、自身の人生の読書遍歴を振り返っていただくAERAの「読書days」。今回は、ライターの九龍ジョーさんです。
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精読よりももっとゆっくり。一行ずつ意味を取りながらであればどんな難解な古典でも「読める」、ということを教えてくれたのは、怪しい読書会だった。マルクスの『資本論』は難解どころか面白かった。価値形態論のダイナミックな展開も、リカードやヘーゲルの悪口もそう。マルクスの準備で、フォイエルバッハの本を読まされた。本と本は繋がっているのだと知った。
河出書房新社の『日本文学全集』で能の現代語訳を担当した岡田利規は、底本に小学館の古典文学全集を使ったという。小学館のがいいのは3段組みで、真ん中に原文、上段に修辞や出典の解説、下段に逐語訳があり、能の謡曲が他の作品への膨大なリンクで成り立っていることが一目瞭然なところだ。岡田の訳した「松風」のベースは「源氏物語」。すべての本は繋がっている。映画、音楽その他、あまねくジャンルでもそうだろう。この間テクスト性のことを、私は「ポップカルチャー」と呼ぶ。(続)
※AERA 2017年10月23日号