高江や辺野古で基地反対運動に参加する人たちは日当をもらっている、というデマが一部メディアで執拗に流されている。本書では、那覇市の県庁前から辺野古行きのチャーターバス(往復1千円)に乗って2日に1度、辺野古新基地建設の反対運動に参加している年金暮らしの女性(75)を紹介している。女性は月1万5千円の費用をねん出するため自宅のガスを止めた。冬場は電気ポットで少しのお湯を沸かし、体をふいていると明かす。
市民の抵抗の主戦場は、高江から再び辺野古に移りつつある。阿部は言う。
「辺野古は、2016年後半の半年間で『決着』してしまった高江に比べてはるかに大規模で、長い期間がかかる工事です。高江で加速した、例えば機動隊員による市民への暴力や抑圧が、辺野古で緩慢に、着実に続いています。辺野古新基地建設について沖縄はこれまで、選挙、住民投票、県民大会、要請行動とあらゆる民主的な方法で繰り返し反対の意思表示をしてきました。もう気付かなかったことにはできないはずです。もし本土世論が辺野古新基地建設も見過ごすとしたら、それは見殺しであり、確信犯的な加担です」
政府だけではない、「本土世論」が沖縄の声を封じる重しとなっている。その現実を指摘しないわけにはいかない。
「沖縄」は多様だ。辺野古や高江の新基地を容認し、政府と対峙するのを良しとしない人たちもいる。ただ、賛否両派の分断を招いているのも過重な基地負担ゆえである。政治的スタンスとは別の次元で、日常的に基地と向き合わざるを得ない暮らしがどれたけ酷な苦痛を強いるものなのか。「遠ざかっていく本土」では、それがますます見えにくくなり、明らかに正当とは言えない「沖縄観」が巷にあふれ過ぎている。今や誰に向かって、どう反論すればいいのかもわからない。
「本土」のその誰かに、ぜひ本書を手にとってもらいたい。(AERA編集部・渡辺豪)
阿部岳(あべ・たかし)
1974年東京都生まれ。上智大学卒業後、97年沖縄タイムス入社。著書に『観光再生―「テロ」からの出発』(沖縄タイムス社)
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