何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。人間と音楽、そしてAIのトリオが奏でる曲とは、一体何か――。
最近、YouTubeでしか音楽を聴いていない。そんな人も多いだろう。すっかり身近になったサービスだが、アーティストにとっては死活問題なのでは? しかしすでに収益化に成功している例も多いという。
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「その日、家でパソコンを開いてiTunesのランキングのページを見た瞬間、『まさか!』ってちょっと震えました」
Heartbeat(ハービー)さんは笑いながら振り返る。彼女が5月に配信リリースしたミニアルバム「Fire」はiTunesアルバム総合ランキングで2位を獲得した。1位はドラゴンアッシュ、3位と4位はミスター・チルドレンだった。
「2年ぶりのリリースなんですけれど、その間に所属していた事務所もレコード会社も辞めていて。自分でレーベルを立ち上げて出した作品なんです。だから本当に驚きでした」
かつてテレビ番組「ASAYAN」の歌姫オーディションでグランプリに輝き、2002年に勝又亜依子として16歳でメジャーデビュー。その後改名するも、10年以上ヒット曲に恵まれないまま30代に突入した。メジャーレーベルや事務所との契約もなくなり、このまま音楽活動を続けるか悩んだが、「何も残せないのは悔しい」と独立して活動することを決断。活路として見いだしたのがYouTubeだった。
●ゲーム実況がきっかけ
「音楽きっかけじゃなくても私自身を知ってもらおう」と自身のYouTubeチャンネルを立ち上げゲーム実況の生配信を始めたハービーさんは、徐々にその世界にのめり込んでいく中で、YouTubeチャンネル登録者数170万人を超える人気ゲーム実況チームの「2BRO.」(兄者・弟者)とSNSを介して知り合い、交流を持つようになる。その縁で彼らが投稿する動画のエンディングテーマにオリジナル曲「Fire」が起用され、それがヒットの起爆剤となった。
「それまで周りの音楽関係者からは『ゲーム実況なんて何のためにやってるの?』と冷たい目で見られてきたんです。でも結果を出してようやく『こういう形もあったんだね』と認めてくれた。それも嬉しかったです」
音楽マーケットの細分化が進み「誰もが知るヒット曲」が生まれにくくなった昨今。かつてのようにドラマ主題歌やCMソングのタイアップ起用がセールスに直結するわけではなくなった。しかしその一方で、昨年のピコ太郎「PPAP」旋風が代表するように、今までにない形でのYouTube発のヒットが生まれるようになっている。ハービーさんもそれを形にした一人と言っていいだろう。