「趣味は何ですか?」。会話の糸口に聞かれることは多いもの。だが、これといって趣味がないと、この質問はプレッシャーだ。SNSにはリア充趣味に興じる様子がてんこ盛り。趣味界は、なんだかんだと悩ましい。インスタ映えを重視して「趣味偽装」する人、趣味仲間から抜けられずに苦しむ人もいるらしい。AERA 7月31日号ではそんな「趣味圧」の正体を探る。
インターネットの進化で、趣味はより一層人付き合いのツールになり、「軽量化」していった。「趣味を持たなければ」という強迫観念は、そんな意識の変化から生まれたのかもしれない。
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7月初旬、まだ日も高い午後6時前。東京・池袋の居酒屋「はなの舞」で女性2人組の席に黄色いチョコバナナカクテルと、鶏肉のグリルと太いソーセージ、丸く盛られたご飯が三つというがっつりプレートが運ばれてきた。同店では8月6日までアニメ「おそ松さん」とコラボしたイベントが開かれ、主役の六つ子にちなんだメニューが展開されている。こちらは野球好きで黄色がイメージカラーの「十四松」メニューだ。
「ほかでも『おそ松さん』のイベントをやっていたんですが、メニューが可愛くてSNS映えするのでこっちの店に来ました」
神奈川県から来たという20代女性は、持参のおそ松さん人形と自分とメニューをスマホでパシャリ。ツイッターに上げると、「いいね!」や「こんど一緒に行きましょう」というリプライが続々と寄せられる。
企画を立てたはなの舞の運営会社「チムニー」の堀澤明子さんは、ファンを引き寄せるイベントのポイントは「色」にあるという。写真映えがするためだ。特に女性ファンは写真をすぐにSNSにのせるなど拡散力が強いともいう。
●人間関係に引きずられ
趣味とは本来、きわめて個人的な営みだが、社会の変化とともに流行(はや)りすたりが存在する。
漫画『サザエさん』には、盆栽や釣りなどを楽しむ波平、バイオリンにレコード鑑賞と時々の流行りに手を出すマスオらが趣味に興じる様子がたびたび登場する。趣味は生活に余裕が出てきたことの表れでもあり、憧れでもあった。時代が進むとマスオの麻雀、サザエのコーラスのように、趣味は人付き合いの要素として生活に浸透してくる。
現代で静かに進行しているのが、特に若年層にみられる趣味の「ライト化」だ。博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さんは、その背景にあるのは、「一つの趣味にのめりこむのは割に合わない、という意識です」と語る。