大相撲もプロレスも、集中してベストコンディションを保ち続ける必要がある。だから、千秋楽や試合が終わったあと仲間と酒を飲み、あとは家で何もしなくていいという解放感はたまらないものがありました。
引退の時に「腹いっぱいのプロレス人生でした」と語ったとおり、悔いなく相撲もプロレスもやってきました。現役当時はプロレスという仕事に誇りをもって、世間にもなめられないように突っ張っていた。50歳になるまでコンビニにもファミレスにも行ったことはなかったし、車も外車と決めていました。今はどこでも行きますし、街に出て「あ、天龍だ」と笑われても気にしなくなった。やれるだけのことをやってきたから、今は何もやりたいと思わないし、体をいたわって過ごしています。家族には、明日の朝俺が起きてこなくても、盛大ににぎやかに送り出してくれよと言っています。
趣味がたくさんある人はうらやましいなとは思いますけど、体も悪いしこれから何か趣味を持つことはないでしょうね。これまで自分がやってきたことがそれだけ分厚いと思っているから、新しいことをやる必要がないのかもしれません。読んだ本、聴いた曲のタイトルはすぐ忘れるけど、自分がやってきた試合のことはしっかり覚えているし、よみがえってきますからね。今何もしないことが幸せなのは、その感覚があるからだと思います。
(構成/編集部・福井洋平)
※AERA 2017年7月31日号