もう一つは、3年前にボールの素材がセルロイドからプラスチックへと変更されたことだ。
プラスチックボールはそれまでより直径が0.5ミリ大きく、空気抵抗も大きくなってスピードやスピンの量が落ちる。結果、日本選手はパワーとスピードで上回る外国勢相手でも、台から下がらずに打てるようになった。体も出来上がっていない、スキルで勝負する13歳には特に有利に働いたわけだ。
●今日から普通の中学生
母が166センチと長身だったせいか、張本も現時点で171センチ。この2年で20センチ近く伸びて成長痛に悩まされた。
「卓球は自然に始めた。大人用より10センチ低い子ども用の卓球台でも普通の2歳児なら顔が出ない。智和は大きい子だったから打てたんです」(宇さん)
体格以上に父を驚かせたのは、その集中力だった。
「とにかく、卓球でも、勉強でも、一度決めたらずっとやれる。長い時間でも集中できる子。集中していないときは注意しましたが、できるだけ伸び伸び育てたつもりです」(同)
家族でどこかに遊びに行ったことはない。週に1度、両親がコーチ業を休む日はあったが、張本はそんな日も1時間半は練習したという。しかも、塾に通って勉強もした。成績もいい。
「遠征で学校を休んでるのに、テストはなぜ100点なの?と不思議がられました」
と父は言う。母はいつも、
「卓球だけできればいいわけじゃない。勉強もしっかり」
と文武両道を説いた。卓球王国でもまれ、プロの厳しさを知る母だからこその親心だろう。
卓球はシャープな頭脳を必要とする。元世界チャンピオンで国際卓球連盟会長も務めた故・荻村伊智朗は「100メートル走をしながらチェスをするスポーツ」と語ったという。聡明にして集中力もある張本は、卓球に最適ではないか。
世界選手権が開催されたドイツでも「100年にひとりの天才」と評されたのに、「今日から普通の中学生です!」とあどけない笑顔を見せる。「ギャップ萌え」は2020年まで続きそうだ。(文中敬称略)
(ライター・島沢優子)
※AERA 2017年6月19日号