ただ、「LGBTの方々の取り上げられ方には今も大きな偏りがあります」と寺原さんは言う。メディアとLGBTの関わりについて研究している明治大非常勤講師(性社会文化史)の三橋順子さんもこう指摘する。
「LGBTと言っても、バラエティーに登場するのは過剰に女っぽいゲイ(おネエ)ばかり。実際にはマッチョな男性的なゲイのほうが多いのに、女性っぽいゲイしか取り上げられないことが多いんです」
今年4月のNHKの番組で三橋さんがこの問題を指摘しようとしたが、顔出しで登場してくれるマッチョ系のゲイはいなかった。それ以外にも、L(レズビアン)や女性から男性になったT(トランスジェンダー、FtM)が登場することもかなり少ない。
「日本ではMtF(男性から女性に変わったトランスジェンダー)よりFtMのほうが3倍近く多いという統計もあるんですが、FtMはテレビ的には使いづらいという認識があるようで不可視化されているんです」(三橋さん)
●「面白い」か「かわいそう」
冒頭の「扱いづらい」という発言は、テレビがまだLGBTの中でも面白おかしく扱える「おネエ」しか必要としていないことの表れだろう。あるいは報道やドキュメンタリーで性同一性障害(GID)などの「かわいそうなLGBT」という切り口で扱うか、どちらかだ。テレビバラエティーでのおネエキャラはいまだにずけずけと性癖やプライベートな状況を聞かれ、女性らしさのアピールや、男性芸能人に「素敵!」と群がるポジションを求められる。女装家のミッツ・マングローブさん(42)は言う。
「まだ自分たちもそのレベルなのか、と思ってしまいますね」
日本における「おネエ」キャラの嚆矢(こうし)は1973年に性転換手術をしたカルーセル麻紀さん(74)だが、その後おネエキャラ以外でLGBTを公言するタレントはなかなか活躍できず、一方で90年代に「ニューハーフ」が大勢集まって運動会をしたり料理を作ったりする番組が量産されたことで、LGBTに対する偏ったイメージは強固になった。あるゲイの男性はそのころの状況を、「自分は将来、カルーセルさんみたいに女性の格好をしなければいけないのかと絶望していた」と振り返る。