「バベルの塔」3D再現/絵画から3Dモデルを起こし、約32倍の立体を手作業で再現。来場者たちは塔内部のモニターを覗きこむなどして、作品と触れ合っていた(撮影/加藤夏子)
「バベルの塔」3D再現/絵画から3Dモデルを起こし、約32倍の立体を手作業で再現。来場者たちは塔内部のモニターを覗きこむなどして、作品と触れ合っていた(撮影/加藤夏子)
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「クローン文化財」が、国際社会で注目を集めている。文化財の保存と公開という対立するふたつの命題に光を投げかけているからだ。プロジェクトを率いるのは、宮廻正明教授がリーダーを務める東京芸術大学COI拠点だ。

【フォトギャラリー】最新技術で忠実に再現された作品群

 オランダのボイマンス美術館から24年ぶりの来日を果たしたピーテル・ブリューゲル1世の「バベルの塔」。東京都美術館で開催中の「バベルの塔」展には、主役の絵画近くに、もうひとつ、人だかりのできる場所がある。

「ほら、あそこにも人がいる」

「こんなに細かかったんだ」

 家族連れやカップルが指を差し、顔を近づけ、感慨を話し合っている。じっくり眺められるからか、こんな声も聞こえた。

「こっちのほうがおもしろいかもしれない」

 彼らの前に掲げられているのは、「バベルの塔」の高精細複製画だ。20号ほどの実物を201×162センチ、約9倍の大きさにまで拡大してあり、塔内部の人物や作業風景が見える。

 文部科学省と科学技術振興機構が推進する「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」のひとつ、東京芸術大学の「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション拠点」が制作した。

 研究リーダーを務める宮廻(みやさこ)正明教授は、従来とは異なる手法で作製されたこの高精細複製画を、「クローン文化財」と呼ぶ。

 クローン文化財とは、絵画や彫刻など価値ある文化財を、素材や質感をオリジナルそのままに再現した作品群のことだ。最新のデジタル技術と芸大が持つ絵画や彫刻、修復の技法を駆使して作られる。復元に必要な、板絵や絹、曲面を含む壁画への印刷技術の特許も取得した。

「バベルの塔」も、ボイマンス美術館で実物の筆遣いや質感を確認して色合わせを行い、高精細デジタルデータを作成。本物と同じオーク材の薄い板に手作業で下地をつくり、印刷したデータを貼りあわせて作られた。

●拡大・立体化も自在

「『バベルの塔』は、1568年頃描かれたといわれ、保存の問題から、海外公開は今回が最後ではとも言われています。貴重な機会に作品の素晴らしさをつぶさに見てほしい。精緻に描かれた作品は拡大してもなお鑑賞に堪え、1400人もの豆粒のような人影までもきちんと人の形に見えるのです」(宮廻教授)

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