●展示の自由度増す

 もうひとつ、美術館や博物館にとってのテーマ、公開と保存にも向き合うことができる。

「公開すれば、作品は劣化のリスクを負います。保存を考えれば、公開に制限をつけざるを得ない。そもそもの経年劣化の問題もある。時代が進むとともに、作品をいかようにも再現できるクローン文化財の存在価値は増すはずです」(青柳さん)

 島根県・足立美術館もクローン文化財に注目、横山大観の「紅葉」と「海山十題」8作の作製を芸大に依頼した。副館長の足立知美さんは、芸大を訪ねた際、ゴッホの「自画像」のクローン文化財を見、その筆遣いや凹凸の再現に感嘆し、手で直に触れ、可能性を知ったひとりだ。

「日本画は繊細で、温度や湿度、照明でも劣化のリスクがあります。『紅葉』も、毎年秋の3カ月間の公開に限らざるを得ませんでした。けれど、ここまでオリジナルと違わぬ作品を作れるのなら、クローン文化財を使った通年展示や、来場者と距離感の近い展示も実現できるはずです」(足立さん)

「紅葉」と「海山十題」は現在、東京芸大COI拠点が調査、作製中。完成と納品は、19年3月を予定している。

●飛鳥時代の国宝も

 クローン文化財は、地方創生にも一役買った。今年3月に富山県高岡市で公開された法隆寺の国宝、釈迦三尊像の再現には、400年を超える高岡市の鋳物技術と600年を超える南砺市の彫刻技術を取り入れた。

 再現に関わった伝統工芸高岡銅器振興協同組合の梶原壽治理事長は言う。

「法隆寺のご厚意で実際の釈迦三尊像を間近に見る機会をいただきました。1400年の重みに圧倒され、再現に携われたことを誇りに思うとともに、私たちが積み上げてきた技術を生かしていただいたと思いました」

 高橋正樹・高岡市長は言う。

「高岡市の人口は約17万人ですが、10日間の会期中に1万8千人もの来場者がありました。多くの方に、歴史的な文化財が再現されたことと高岡市と南砺市の伝統技法をご評価いただけたようです」

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