人口の東京一極集中が止まらない。地方創生の点からも、まだまだ元気な高齢者を地方に移住させ、活躍の場と介護が必要なときになれば継続的な支援が受けられる日本版CCRC構想。そのモデル地区となっているのは鳥取県湯梨浜町だ。ただ、縁もゆかりもない土地に高齢から移住するには気が引ける……。東京、大阪からこの町に移り住んだ二人の高齢者を訪ねてみた。「年を取るのは怖いですか?」――AERA5月15日号は老後の不安に向き合う現場を総力取材。
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関西圏からのアクセスがよく、より自然が豊かな鳥取県の湯梨浜町。アエラの調査では「農業」分野で高い評価となった。65歳以上の1次産業就業率が20%を超え、シニアの農業支援制度や休耕田、農地貸出制度なども整えている。
鳥取砂丘コナン空港からバスで約40分。県中部で人口約1万7千人の同町。名前は「豊富な湯量と上質な湯に恵まれた温泉」「特産の二十世紀梨」「日本海に広がる砂浜」に由来する。
「湯梨浜の生活は、めっちゃ楽しいです」
関西弁で記者を出迎えてくれたのは、15年4月に夫婦で移住した森本せつさん(74)だ。高齢者に人気のグラウンドゴルフ発祥の地で、日本海を見下ろす「潮風の丘」の麓に住む。
森本さん夫婦はともに大阪中心部で生まれ育ち、いつかは静かな場所で生活することを夢見ていた。湯梨浜には知り合いもいなかったが、海、山、温泉と三拍子揃い、年金だけで十二分に豊かな生活が送れるコスパに大きな魅力を感じたという。実際に暮らしてみると、湧き水は自由に使えるし、米や野菜、魚、果物はすべて近所からのもらい物でまかなえるなど、予想以上。農家や漁師として生計を立てる人が多く、余った作物は近所に配る文化がまだまだ色濃く残っていた。
「今日も玄関に、わらびが置いてありました。メモを置いて、名前を書いてもらうようにしてるんです。漬物なども夫婦で食べきれないほどもらい、昔は低血圧だったのに今では高血圧」
と、森本さんは笑う。