今年3月31日に閣議決定された教育勅語の教材使用についても、国会決議との矛盾が指摘されている。安倍政権は「憲法や教育基本法に反しない形」という条件付きで、教材の使用を認める閣議決定をした。だが、天皇への忠誠を強調するなど軍国主義教育の象徴だった教育勅語は、1948年6月に衆参両院で「排除」「失効」の確認が決議されている。衆院の排除決議は、教育勅語が「神話的国体観」に基づいている事実は、明らかに基本的人権を損ない、国際的にも疑念を残すとして、謄本を回収し、排除を完了するとした。

●安倍内閣から変化

 ところが、第2次安倍政権の閣僚からは肯定的な評価が相次ぎ、すんなりと閣議決定。4月7日の衆院内閣委員会では、義家弘介文部科学副大臣が幼稚園児に教育勅語を朗読させることについて「教育基本法に反しない限り問題ない」と答弁した。政治評論家の森田実氏は「閣議決定を議会より上位に置くのは憲法違反」と語る。

「議会は国権の最高機関であると憲法41条が規定しており、内閣は議会に従属します。48年の国会決議であっても、当然、現内閣に対して政治的拘束があると考えるべきです。それを無視して、いち内閣の閣議決定で上書きしようとする姿勢は、完全な国会軽視、行政独裁であり、憲法違反です」

 教育勅語に関する閣議決定は、民進党の初鹿明博衆院議員の質問主意書に対して出された答弁書だ。質問主意書とは、国会議員が内閣に対し文書を通じて質問をすることができる制度。主意書を両院議長を通して内閣に送ると、内閣は政府の統一見解として閣議決定した政府答弁書を出す。

 主意書は、主に野党議員が内閣の説明責任を追及したり、言質を取ったりする目的で出されることが多いため、政府答弁書には慎重さが求められてきた。それが「安倍内閣では変化が生じてきた」と中野教授が言う。

●霞が関は政権を忖度

「教育勅語で言えば、当然、野党側は過去の国会決議との矛盾を意識して質問主意書を出す。内閣はそこを突かれないように意識して答弁書をまとめるのかと思いきや、憲法違反とも取れる政府答弁書を平気で閣議決定するようになった。それはなぜか。たとえ憲法や国会決議と矛盾しても、罰則もなく裁定もされないからです。その場をしのいでやり過ごせばいい、言った者勝ちだ、というおごりがみえます。憲法も国会も軽視した閣議決定が乱発され、それが権威をともなって『既成事実化』される現状は非常に危険だと思います」

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