この国で、誰にも迷惑をかけずひっそり死ぬという自由はいまや存在しないのかもしれない。貧困で社会から疎外される前に、自ら社会との扉を閉ざす前に、何ができるのだろうか。
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「孤立死が増えるのは、実は5~6月なんです」
遺品整理業「ロード」(川崎市)の鎌田爵宏(たかひろ)社長は、そう語る。ずっと暑い夏よりも、気温の上下が激しい5~6月に水分補給を怠り熱中症などで体調を崩す人が多く、結果として孤立死につながるという。
年々地域コミュニティーが薄れている中、人が「孤立」するきっかけはそこここにあふれている。会社からのリストラ、配偶者との離死別、子どもの独立。年を取ると新しい人間関係を築きにくくなり、体調を崩したり認知症を発症したりすれば外出もできなくなってますます孤立する──。東京都監察医務院によれば、2015年に東京23区内の65歳以上の単身世帯者で自宅で亡くなった人の数は3116人と、10年前の倍近くに。23区内65歳以上の死者数全体は7万人程度なので、死者22人に1人は孤立死という計算になる。
死んだらあとのことは知らないでは済まない。夏場なら遺体は3日で腐り始め、1週間もすれば体液がにじみだす。「高齢者孤立死のほとんどはアパートのワンルームや1DK住宅で起こっている」(鎌田さん)ため部屋の清掃やリフォーム費用、葬儀費用などに数百万円、遺体の腐敗が激しいとDNA鑑定が必要で、これ以上腐らないように遺体を長期間保存するため費用がさらにかさむこともある。
「完全に身寄りのない孤立死の案件は10人か20人に1人程度。警察はかなり徹底して親戚や係累を捜してきます」(鎌田さん)
●こんな死に方はいやだ
孤立死は周りの住人だけでなく、会ったこともない遠くの親戚にまで迷惑を及ぼすのだ。遺品整理業の草分け的存在「キーパーズ」の吉田太一社長は、孤立死の実態を克明に描いた啓発DVDを作製した。周りとコミュニケーションを取ろうとしなかった高齢男性がアパートで孤立死し、関係を絶っていた息子は高額の清掃費や近隣住人の引っ越し費用を請求されて途方に暮れる。だが、死んでしまってはその迷惑をつぐなうことができない──。人の形に体液が床に染み込みウジのわいた写真もそのまま見せる。