アエラの連載企画「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は新日鉄住金の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■新日鉄住金 君津製鉄所 製鋼部 第二製鋼工場 第二精錬課長 加藤大樹(33)
1600℃以上に熱せられた300トンの溶けた鉄が、転炉と呼ばれる炉から運搬用の器へと移し替えられても、炉についた鉄はそのまま赤々と光を放っていた。そのまぶしさは太陽のようでもあり、火山口からマグマをのぞいているようでもある。現場はとにかく安全の確保が最優先。撮影のチャンスも、1時間ほど待機したのちに、わずか5分程度訪れただけだった。
千葉にある新日鉄住金君津製鉄所は、東京ドーム約220個分の敷地を有し、年間900万トンに迫る粗鋼を生産する。加藤大樹の属す第二製鋼工場は主に、高炉から運ばれた溶けた鉄と鉄スクラップを転炉に装入し、そこに高圧の酸素を吹き込んで、不要な炭素分などを取り除く工程を担う。
「転炉はほぼ休みなく動き、1日で合計60杯以上は作ります」
加藤は、東京大学大学院マテリアル工学専攻修士課程修了。日本の産業を支え、広く社会に関わっている「鉄」の仕事がしたいと、2007年に新日本製鉄(当時)へ入社。君津製鉄所の製鋼部製鋼技術グループへ配属された。最初に担当した仕事は、溶融した鋼を冷却して凝固させるプロセスの生産性向上。最適な冷却速度を計算し、試験を重ね、10%生産性を高めることに成功した。
16年4月に現職の課長になった。117人いる部下の安全管理や労務管理を始め、品質やコストなどの管理・改善が仕事だ。まだ33歳、半分以上の部下が年上だが、話を聞きながら、一人一人のレベルアップを促すように心がける。ときにプライベートの悩みを相談されることもあるが、よりよい解決策を共に考える。
「チームで役割分担しながらモノづくりをしているので、一人でも機能しないと製品が正しく作れなくなるんです。みんなの向上意欲を大切にしたい。製造現場は、一人の100歩より、100人の一歩が大事ですから」
半年前に生まれた息子がいる。いつか、この工場を見せてあげたいと思う。
(文中敬称略)
(編集部・大川恵実 写真部・東川哲也)
※AERA 2017年1月23号