料理教室「Philleigh Way」で教えているシェフのジョージ・パスコーさん(撮影/富岡秀次)
料理教室「Philleigh Way」で教えているシェフのジョージ・パスコーさん(撮影/富岡秀次)
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伝統的なコーニッシュ・パスティ。190度のオーブンで1時間焼いたら、できあがり(撮影/富岡秀次)
伝統的なコーニッシュ・パスティ。190度のオーブンで1時間焼いたら、できあがり(撮影/富岡秀次)
デヴォンのトーキーという町にあるWeavers Cottage Tea Shoppe。萱葺きの屋根がかわいらしい(撮影/富岡秀次)
デヴォンのトーキーという町にあるWeavers Cottage Tea Shoppe。萱葺きの屋根がかわいらしい(撮影/富岡秀次)
Weavers Cottage Tea Shoppeでは、伝統的なクリームティー(ジャムとクリームを添えたスコーンと、紅茶のセット)が味わえる(撮影/富岡秀次)
Weavers Cottage Tea Shoppeでは、伝統的なクリームティー(ジャムとクリームを添えたスコーンと、紅茶のセット)が味わえる(撮影/富岡秀次)
こちらはジャムが上にのっているデヴォンスタイル。コーンウォールではクリームが上になる(撮影/富岡秀次)
こちらはジャムが上にのっているデヴォンスタイル。コーンウォールではクリームが上になる(撮影/富岡秀次)

 イギリスはまずい、は過去の話だ。極上の食材を育む自然、情熱的な生産者、賢明な選択のできる消費者。ブレグジットに揺れる中、違ったイギリスが見えてくる。最終回の今回は、受け継がれている食の伝統に迫る。

【おいしいイギリスの写真はこちら】

*  *  *

 生産者と消費者が食をめぐって進化している一方で、変わらず守り続けられる伝統もある。コーンウォールの郷土料理といえば、コーニッシュ・パスティ(「コーニッシュ」は「コーンウォールの」の意)。

 ペイストリー生地に肉や野菜の具材を包んで焼いたもので、かつて主要産業だったスズの採掘で、鉱員たちが食べていたのが起源と言われる。

 このコーニッシュ・パスティ、11年にはEUの「地理的表示保護」の対象に指定された。長年培われてきた特色ある地域産品を守るために、知的財産として農産品・食品の名称を保護する制度だ。シャンパンやゴルゴンゾーラも同様の制度で保護されている。欧州委員会が決定したコーニッシュ・パスティの定義によれば、

・片側にひだが寄せられている(上ではない)
・少なくても12.5%の牛肉を含む
・スウィード(スウェーデンカブ)、ジャガイモ、タマネギが入り、塩コショウで味をつける
・他に味つけ、添加物はなし
・コーンウォール州内で作られている

 という規定がある。

 地元の料理教室で、伝統的なレシピを習うこともできる。トゥルーロにあるPhilleigh Wayはシェフのジョージ・パスコーさんが教える料理教室だ。

「パスティは我が家に伝わる祖母のレシピをベースに教えています。パスティ・フライデーといって、うちではいつも金曜日にパスティを作るのが決まりごとでした」

 “サンデーロースト”といって日曜日にロースト肉を食べるのはイギリスの伝統と聞いていたが、パスティ・フライデー、フィッシュ・フライデーなど、各家庭にそれぞれの“おふくろの味”がある。こうして家族で食卓を囲む伝統が受け継がれていくのだろう。

 さまざまな食事情を見てきたが、最後に、この地でいつも激論がかわされている一件にも触れておかなければならないだろう。それはクリームティーをめぐる論争だ。

 山盛りのクロテッドクリームに、いちごのジャム。焼きたてのスコーンに乗せて、紅茶と一緒にいただく。ここで大きな問題になるのが、クリームが先か、ジャムが先かだ。

 デヴォンでは、クリームを先に乗せ、その上にジャム。一方のコーンウォールではジャムが下で、クリームが上。この1点について両者は決して譲らず、「パンにはバターを塗ってからジャムを塗るでしょう。それと同じこと」とデヴォン側が主張すれば、コーンウォールは、「クリームを上にのせて鼻の頭にくっつけながら食べるのが由緒正しき食べ方だ」と主張する。郷に入っては郷に従え。その土地のお作法に従ってみよう。

AERA 2017年4月24日号