



――カメラを始めた動機は
昨春亡くなった高田渡さんが、いつもニコマートを持っていたんですよ。よく地方ツアーに同行していて、「重たいのに持ち歩くなんて、ご苦労なこった」と思って見てたんですけど、あるとき高田さんが撮影した風景写真が雑誌に掲載されてね。「あーそういやぁ、こんな風景あったよな」とその場所を思い出したんです。それで刺激されてカメラを買いに行った。20歳のときです。高田さんのニコマートしか見ていなかったから、50ミリF1.4つきのニコマートFTを購入しました。
――最初に撮影したのは
銀座の街並みです。自分の故郷を撮りたいと思った。カメラを構えると、景色を見ようとして、見ますね。それまで通り過ぎていたものを撮影することで、見るということを覚えたわけです。それで面白くなっちゃったんですね。ふだんは立ち止まったり見上げたりして街を見る機会はないけど、撮るとなると視点が変わるじゃないですか。街って面白いなあって感じたな。
――ツアーでも撮影を
行く先々で撮りました。それまでは各地の景色を楽しむことがなかったんです。昨日は広島で、今日は青森でコンサートといっても感覚は同じなんです。 駅から会場へ行く。宿に泊まる。全国どこに行っても印象は変わらない。自分のお金で行ってるわけじゃないから、旅を大事にしていないんです。カメラがあると、散歩に出かけるきっかけになる。会場でリハーサルを終えると本番まで2、3時間あるから、その空き時間にぶらぶら撮影に歩きましたね。
――ずっとニコマートで
10年くらいはニコマートでした。今そのころの写真を見ると、なんでもっとちゃんと撮らなかったのかなって思いますね。カメラに慣れると、逆に「見なくていいや。カメラに収めときゃ」という観光客みたいな写真を撮るようになった。そうなるとカメラが重く感じ始めてね。それで、ローライ35などコンパクトカメラを持って散歩するようになりました。
――東京の下町を撮り続けていますね
東京が好きなんです。種々雑多であり、とくに下町は混沌としている。その街の貌(かお)を見るのが面白い。東京は様変わりを続ける街ですから写真を5年後に見ると、もうその風景はないんです。「ここに八百屋があったよなあ」というところがビルになっていたりする。東京を散歩して街を撮り続けているのは、じつは面白いことだと気づいた。古いものを記録しておこうなんて使命感はないけど、撮り続けようと。そうすると街をしっかり見る。街を大事に思う。それはカメラに教えられた、ありがたいことです。
――最近はデジカメですね
写真集「東京のこっちがわ」はエプソンR-D1で撮ったものが多い。銀塩派がデジカメに対して、しょっぱいこと言うからね(笑)。理論先行で、銀塩に限ると言っている人たちの写真って面白みが感じられませんもん。カメラありきより、写真ありきですよ。まず撮る楽しみだと言いたい。
――自転車など多趣味で知られてますがカメラは長いですね
自宅には50台くらいカメラがあり、ここ2、3年はネットオークションや中古屋で買っています。飽きないのは、「ダメだな、おれ」って思うからでしょう。何を撮っても「おれって天才かな」と思ったら、あっという間に飽きちゃうでしょうね、きっと。(笑)
※このインタビューは「アサヒカメラ 2006年2月号」に掲載されたものです