「研究中で未知の部分も多いが、今後最も進展が期待される分野のひとつです」(後藤医師)

 ならば、ヨーグルトは腸内環境に効果的なのか。

「乳酸菌も、胃酸である程度死にます。最近流行の『生きて腸まで届く』も、たとえ数億届いたとしても、腸内細菌の中ではごくわずかで、すみつくかはわかりません。継続して生活習慣に取り入れ、緩やかな影響を期待すべきものです」(同)

 しかし、安易な絶食や糖質制限は、「腸内の菌類にとっては好ましくないのでは」という。

「絶食すれば、腸内細菌のエサになる養分が補給されません。また、乳酸菌のエサは、炭水化物の残渣や食物繊維です。糖質制限は、腸内の乳酸菌にとってはダメージになり得ます」(同)

 腸内細菌叢を研究する早稲田大学理工学術院の服部正平教授は、さらに慎重だ。

「確かに病気の人と健常な人の腸内細菌叢は、菌類の分布に違いがある。いずれ腸内から長寿や健康にまつわる特定の細菌も見つかるのではと考えています。常在菌すべてに何らかの役割があると考えられますが、ヨーグルト等に含まれる乳酸菌が健康にいいと言い切れるデータは、私から見れば、まだありません」

●宣伝に踊らされない

 CMには、健康によいとされる製品が多数登場するが、宣伝文句に踊らされぬよう、見極めも肝心だという。医師でさえ、影響を受けることもある。実際、複数の医師が期待を寄せる納豆の血栓予防効果は、「テレビ番組の誤った健康情報が由来では」と、国立健康・栄養研究所食品保健機能研究部の梅垣敬三部長は指摘する。

「摂取したたんぱく質は胃や腸で分解され、吸収される頃にはほとんどがアミノ酸のレベルになっています。納豆に含まれるナットウキナーゼに抗血栓効果があるとして、それがそのまま腸管から吸収されることも、血中に出ていくことも、消化吸収の仕組みからは考えられません」

前出の服部教授は言う。

「特定の食材やサプリより、普段の食事が重要です。日本人の長寿は、多様な食事をバランスよくとってきたことの結果でしょう。医師の多くは、それを正しく理解していると思いますよ」

 西洋医学の最後の取りこぼしが生活習慣病であるという。多くの患者と接し、自らも過酷な就労環境下でそのリスクにさらされている医師だから、都合のよい特効薬がないとわかるのか。

「多種多様な食材をバランスよく摂取することと、規則正しい生活、ストレスをためない、適度な運動と休息、睡眠で健康は保てます」(50代・救急医療・勤務・男性)

「3食きちんと取り、生活リズムを整え、適度な運動を取ること以外にない。体によいという宣伝に、乗らないことです」(50代・脳神経外科・勤務・男性)

 その当たり前が難しい。

(編集部・澤志保)

AERA 2017年4月24日号

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