「憲法や民法といった学部初期に勉強する主要科目は大教室での授業が多いが、3年のAセメスター(秋学期)以降は中小教室での授業が多くなります」
ゼミに相当する「演習」も、他の学部と違い半年単位で開かれるため開講される数はかなり多い。2年間続けて行われるわけではないので人間関係が深まらないという声もあるが、
「法学部の2年間で四つの演習に参加する熱心な学生もいます。法学部を『砂漠』にするかどうかは学生次第だと思います」
砂漠化を防ごうと、様々な努力を重ねる東大法学部の教員もいる。大教室での授業も担当する藤原帰一教授(国際政治)は、「講義ノートを読み上げるだけの授業はしないようにしている」と言う。
「学生は聞いたことの意味がわからないまま口述筆記することになる。学生の頭を動かさなければ授業の意味がないんです。相手が聞きたいという状況をつくらなければいけないというのが大変」
●海外大学生と共同発表
テクニックの一つが、「これは余談だけど……」という言葉。実際は余談ではないのだが、学生の関心は一気に高まる。
「法学部内でワーキンググループをつくってベストプラクティスを共有し、教育方法の改善にもつなげています」(藤原教授)
国際化への対応も課題の一つだ。藤原教授は16年度、海外の3大学と共同でほぼ同時にオンライン授業を展開。学生には大学をまたいだ班編成で発表させるなど、学生になるべく国際的な環境で学べる機会を与えようとしている。
「法曹界や官庁など、日本語で済んでしまう仕事が多く国際化が遅れてしまった。日本語だけで学んでいたらとてもダメだということを学生に伝えないといけない」(藤原教授)
「法と経済学」「交渉と紛争解決」といったテーマを教える太田勝造教授は、東大法学部には「もっと学際的分野を取り入れるべき」と語る。
「法学は他の学問分野の成果を取り入れる動きが10~20年くらい遅れてきたと思います」
●他分野学問とも融合
それでも、脳科学の方法を用いて政治行動を研究する「ニューロポリティクス」分野の研究が進められ、太田教授も法学に経済学や心理学、統計学といった他ジャンルの学問分野を融合する試みを続けてきた。今年4月に法学部内にできる「先端融合分野研究支援センター」ではセンター長を務め、精神科医や獣医、動物行動学者、天文物理の博士号を持った研究者などと協力して学際的研究をさらに進めていく。例えば矯正施設で保護犬や警察犬の訓練を行うプログラムがあるが、その効果を科学的に検証する研究ができないか、などを検討中だ。
「AIによる法的判断の支援システム構築といったテーマも今後取り上げる可能性があります」(太田教授)
(編集部・福井洋平)
※AERA 2017年3月27日号