1974年生まれのアフィア・ナサニエル監督は、本作で長編劇映画デビュー。コロンビア大などでシナリオライティングの教鞭を執りながら創作を続けている。米国で初めて黒澤明監督の作品に出合い、影響を受けたという(撮影/今村拓馬)
1974年生まれのアフィア・ナサニエル監督は、本作で長編劇映画デビュー。コロンビア大などでシナリオライティングの教鞭を執りながら創作を続けている。米国で初めて黒澤明監督の作品に出合い、影響を受けたという(撮影/今村拓馬)
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 日本で劇場公開される初めてのパキスタン映画「娘よ」。アフィア・ナサニエル監督(42)は、実際の事件にインスパイアされて本作を撮った。

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 舞台はパキスタンの山間部。部族間の争いの代償として10歳の娘を嫁がせねばならなくなった母親が、娘を連れて命がけの逃避行をする物語だ。

「1999年、スイスのNGO団体で働いていたときに、母親が2人の娘を連れて部族から逃げ出したという事件を知りました。以来その母娘のことが、頭から離れなくなったんです」

●違う世界の話と思った

 同じパキスタンでも大都市のリベラルな家庭で育った監督は、自国の女性の状況にショックを受けたという。

「『違う世界の話じゃないの?』と思うくらい、パキスタンでは都市部と山岳部のライフスタイルは大きく異なります。それに彼女たちのような事件はニュースにはなりません。表沙汰になって居場所が判明すれば、彼女たちは殺されかねないんです」

 10年かけて物語を温め、2012年に撮影がスタート。パキスタン北部の山岳地帯で映画撮影が許可されたのは初めてだ。

「領土問題で紛争状態にあるインドとの国境付近で、治安はとても悪い。しかも冬場の撮影でマイナス12度なんてザラです。スタッフの安全を守り、悪天候と闘いながらの撮影。それにパキスタンでは人が多く集まるところでは自爆テロの危険がある。ですから都市でのシーンではセットを作り200人のエキストラを使って撮影しました」

 題材はシリアスだが深刻なシーンばかりではない。山岳地帯の風景の美しさに息をのみ、スリリングな逃避行に手に汗握るエンターテインメントでもある。

「さまざまな国で上映されたことで『女性の人権問題は万国共通だ』と改めて感じました。『パキスタンってこんなに美しい場所なんですね』『素晴らしい俳優がいるんですね』という声も嬉しかった」

 監督はコンピューターサイエンティストを経て、米国コロンビア大学で映画を学んだ異色の経歴を持つ。

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