もっともチェルノブイリ原発では、近年、老朽化から、この石棺が倒壊する恐れも出てきた。日本と欧米による国際基金が作られ、石棺を覆う新たなシェルター建設が進んだ。今後、廃炉作業を進める方針だが、具体的な計画があるわけではない。同原発の担当者は13年の筆者の取材に対して「100年かかる可能性もある」と話した。当時、ようやく石棺内の放射線量や温度を常時監視するシステムが整備されたところだった。
●100年単位の核管理
福島第一原発でチェルノブイリのような石棺は考えられていない。ただ、専門家の間には「選択肢としてあり得る」といった見方は少なくない。吉岡斉・九州大学教授(科学技術史)は「福島第一原発も当面石棺化するしかない。発熱量がわずかなので、何らかの事故があっても核物質の再燃はまず起こらない。100~200年経過すれば、放射線量は相当減るので、その時点で高濃度の物質の取り出しを考えればいい」と指摘する。
原発の推進、反対の立場を問わず聞こえてくるのは、「デブリは確認できても取り出すのは難しいのではないか」との見方だ。東電は廃炉期間を30~40年とするスケジュールを掲げるが、さらに長期化する恐れは十分ある。長期管理も含めた石棺の可能性を否定するだけでは、ふたたび疑念が生じる。正面からとらえて、議論をすべき時期を迎えている。
福島第一原発の敷地内はもはやタンクだらけで、何か別の化学工場の中にいるような気分になる。それというのも、日々、タンクに入れる汚染水の発生が絶えないためだ。
第一原発では、事故直後から、溶けた燃料を冷やすため、1~3号機の建屋に水を注入し続けている。注入された水は溶けた燃料にふれて汚染されるが、地下水なども流入してくるので、入れた量よりも多くの汚染水が出てくる。
●海洋放出の現実味
流入する地下水を抑制するために、1~4号機の建屋を氷の壁で覆う凍土壁の設置、建屋地下から水をくみ上げるなどの対策を進めているが、いまだに汚染水が増え続ける。すでに約96万トンの汚染水タンクが敷地内にたまり、その数は1千基に。3階建て相当のタンクが数日でいっぱいになる勢いだ。