ロサンゼルス空港で5時間近く妻を待っていたザビバさんと子どもたち。乳がんを患う妻が無事入国できるのか、この時点では弁護士にもわからなかった(撮影/長野美穂)
ロサンゼルス空港で5時間近く妻を待っていたザビバさんと子どもたち。乳がんを患う妻が無事入国できるのか、この時点では弁護士にもわからなかった(撮影/長野美穂)
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 トランプ大統領が中東やアフリカのイスラム圏7カ国の市民の米国への入国を一時停止する大統領令に署名したのは1月27日。29日、米ロサンゼルス空港では、イラク人難民のイサム・ザビバさん(49)が、妻マヤサさん(48)を待っていた。トルコから十数時間のフライトを経て、4時間半ほど前に到着したはずだった。

「妻はステージ4の乳がんなんです。フライトだけでも負担なのに、その後イミグレーションでずっと拘束されている。体が心配です」

 ISが猛威をふるい戦火が絶えないイラクから、1年ほど前、家族6人で米国に逃れた。イラクではマヤサさんは産婦人科医、ザビバさんは不妊治療の専門技師として働いていた。バビロン大学で出会った2人はキャリアを捨てる覚悟で子どもたちのために「安全」を選んだ。

 昨年末、トルコ在住の父が重病と聞いたマヤサさんは、自らの病を押して父を見舞うため、米国政府からの正式な渡航許可を取得。ひとり旅立った。

 だが、米国に帰国する直前にトランプ氏が大統領令に署名。イラクの国籍を持つ難民である彼女は、飛行機到着後もすぐには入国を許されず、ロサンゼルス空港の別室に呼ばれて、テロリストでないかどうか、調べを受けることになった。携帯で家族に連絡することは禁止され、通訳や弁護士の同席もなし。ザビバさんの横では8歳から16歳までの4人の子どもたちが、

「お母さん、どうして出てこないの? もう会えないの?」

 と泣きそうな顔をしている。

 6時間の拘束を経て解放され自宅に戻った深夜、マヤサさんはぐったりして動けない状態に。

「妻と同じ部屋で尋問された20人は、全員、米国の永住権を持っていたそうです」(ザビバさん)

 難民ステータスを持つザビバさん一家は永住権を申請中だが、今回のロサンゼルス空港での取り調べがその申請結果にどう影響するのかはわからない。

「永住権が取れたら一刻も早く市民権を取って家族を守りたい」

 そう言ってザビバさんは、夜勤に向かった。(ジャーナリスト・長野美穂)

AERA 2017年2月13日号

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長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

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