気にくわない事実は「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」にすり替えろ──。トランプ政治の核心に、虚偽を事実に変える悪魔の戦略がはっきりと見えた。
「あなたはそれを虚偽だと言うが、我々のスパイサー報道官は『alternative facts(もう一つの事実)』を提供しただけだ」
トランプ米大統領就任式の参加者数をめぐり、ケリーアン・コンウェイ大統領顧問が1月22日の米報道番組で使った言葉が、米国内で熱い議論を呼び起こしている。
2009年のオバマ前大統領の就任式と比べて圧倒的に少なかった聴衆を「過去最大だった」とした前日のショーン・スパイサー大統領報道官の会見について言及したもの。「オルタナティブ・ファクトは事実ではなく虚偽だ」と指摘する質問者に苦笑しながら、堂々とした態度でコンウェイ顧問は続けた。
「たった今あなたが視聴者に言ったようなことがあるから、私たちは疑惑を一掃するために立ち上がり、オルタナティブ・ファクトを持ち出すことを強いられる」
オルタナティブ・ファクト。日本ではオルタナ・ファクトと省略されることが多いこの言葉を直訳すると「代替的な事実」。真実に代わる「もう一つの事実」という意味だ。
●トランプ氏守る武器
08年以降、民主党陣営のボランティアスタッフとして米大統領選に携わってきた海野素央・明治大学教授(心理学博士)と一緒に分析してみると、この言葉の裏には、トランプ政治を象徴する戦慄の戦略が隠れているのがはっきりと見えてきた。
海野教授が説明する。
「敵を倒して支持を固めるため、真実に対してもう一つの事実をつくるというメカニズムが働いている。選挙選中から続いているが、今はトランプ政治の戦略の核となった。どんな時でもトランプ氏を守ってくれるのが『もう一つの事実』なのです」
クリントン陣営に身を置きながら海野教授が見たトランプ陣営の選挙戦略は、「全てがフェイク(虚偽)だった」。
トランプ氏と蜜月関係にあるロシアのサイバー攻撃が疑われた民主党関係者のメール内容の暴露や、「クリントン氏のメール流出事件を担当したFBI捜査官が無理心中した」などという数々の虚偽ニュースの拡散。さも事実かのようにクリントン批判を続けたトランプ氏の選挙活動は、まさにオルタナティブ・ファクト戦略そのものだった。