「入国禁止の大統領令で、身の回りがより安全になったと感じるようになった」
トランプ氏が大統領令について、テロリストの入国を防止する「(悪い意図を持った)悪いやつらを国から遠ざけるためだ」(2月1日ツイート)と説明しているからだ。
CNNや有力紙は、トランプ氏が大統領令を発する前に連邦議員や司法当局とのすり合わせをしなかった点を厳しく批判する。さらに、デモの報道をすればするほど、トランプ支持の市民は嫌気がさして、さらなる排外主義へと傾いていく。ホワイトハウス対メディアのせめぎ合いは、ますます国民を分断させる悪循環に陥っている。
●リストラ企業とも笑顔
トランプ氏には、強烈な自己防衛本能がある。それが、メディアに対する反発や攻撃となって表れる。CNNは1月31日、トランプ氏が、トランプ支持者の労働者階級が多い中西部ウィスコンシン州の高級バイクメーカー、ハーレーダビッドソンの工場を訪問する計画をキャンセルしたと報じた。従業員や住民が、訪問に対しデモを展開すると経営者に告げたからだ。
これに対し、ショーン・スパイサー報道官は、CNNの報道を否定し、大統領はハーレー幹部をホワイトハウスの昼食に招待すると発表した。2月2日、大統領は、ハーレー幹部を前に笑顔だった。
「ウィスコンシン州、ペンシルベニア州で勝利させてくれた、素晴らしい人々だ」
こうして大統領は、イスラム教徒や難民を排除する大統領令に賛成してくれそうな製造業の幹部と対面することに成功した。しかし、大統領職としては、メディア報道を否定するためだけの前代未聞のイベントだ。ツイートによる個別攻撃や、過激な大統領令と相まって、「トランプ劇場」に市民を巻き込み、「真実」を見えにくくさせる。ワシントン・ポスト紙によると、ハーレーは需要の低迷で昨年、225人をリストラしたばかりだ。
移民に奪われたとトランプ氏が主張する「雇用」、そしてイスラム教徒のテロにさらされるとする「国家安全」。米国の根幹と言っていい移民と世界の自由主義を遠ざけても、この二つの公約さえクリアすれば、トランプ氏の支持率が上がる可能性がある。猛スピードでそれを追求する彼がその先に見据えているのは、早くも4年後、2020年の「再選」だ。
ジャーナリスト 津山恵子(ニューヨーク)
※AERA 2017年2月13日号

