なぜトランプはこれほどひとの心をつかむのか。その肝は「矛盾」にある (※写真はイメージ)
なぜトランプはこれほどひとの心をつかむのか。その肝は「矛盾」にある (※写真はイメージ)

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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 ついにトランプ大統領が誕生した。就任前よりこれほど世間を賑わせた大統領もいないだろう。就任後も連日マスコミのトップを飾っている。

 まさに狂騒曲だが、なぜトランプはこれほどひとの心をつかむのか。その肝は「矛盾」にある。トランプは様々な矛盾を体現している。米国の矛盾、民主主義の矛盾、共和党の矛盾、白人男性の矛盾。そしてトランプはその矛盾を隠さない。そのスタイルに誠実さを見るひともいれば、怒りを覚えるひともいるだろう。ここに評価の二極化の原因がある。

 それら矛盾のなかで、もっとも深刻なものが政治と経済の矛盾である。それはときにナショナリズムとグローバリズムの衝突と言われるが、正確にはイズム(主義)の衝突ではない。政治と経済の衝突である。政治は境界を守ろうとする。経済はすべてをつなごうとする。これは政治と経済の本質だが、21世紀に入り、ついに正面から衝突し始めている。それは米国にかぎらず、いま世界各国を悩ませている矛盾である。

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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