タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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職場に「婚活メンター」がいて、独身社員に結婚を促す……ってすごい違和感です。さすがにその文言は最終的に削除されたようですが、内閣府のいう一億総活躍社会というのは、すべての男女が無駄なく番って子を産み、将来の納税者の増員と育成に励むイメージなんでしょうか。
友人や親戚から結婚しろと熱く説かれ、「自己中心的な生き方をやめなさい」などと諭されてうんざりしている人は多いでしょう。それを職場でやられ、昇進や査定にまで影響しかねない空気になったら、地獄でしかありません。
「独身いじめ」ともいえるそんな現場に、私も何度か居合わせたことがあります。既婚男性が独身男性に「なんで結婚しないんだ? 男が好きなのか?」と酔って絡んだり、既婚女性が独身女性に「あんまり高望みしないほうがいいよ」と上から目線でアドバイスしたり。余計なお世話だバカヤロー、と横から叫びそうになります。
独身いじめをする既婚者たちの本音は、子どもの教育費に悩むこともなく、自由に恋愛を楽しめる独身者が羨ましいのかも。「私と同じ不自由さをあなたにも!」という心理です。同種のものに「家を買わなきゃ半人前」という説教もありますね。自分と同じローン地獄を、身軽に生きている後輩にも背負わせてやろうという呪いです。
誰かに気持ち良くアドバイスをしているとき、胸に手を当てて考えてみて。受け売りの家族像やジェンダー観や子育て神話を相手に押し付けて、憂さ晴らしをしていない? 自分と同じように、みんなも苦労すればいい、って。
まず考えるべきは、自分はなぜ苦しいのかってこと。いま常識とされている価値観や、制度の歪みに対して怒るほうが、よほど生産的です。
「善意の既婚者」たちも、婚活支援のつもりの言動が結婚の強制や独身差別になりかねないことを自覚しないといけませんね。(小島慶子)
※AERA 2017年1月2-9日合併号