ここまでの支出を計算してみた。店のレンタル代と着付け料金あわせて2万8千円に加え、高いお酒を買いすぎ、ぎゃー。すでに5万円近い出費。1ドリンク500円に設定したので、100杯売らないと赤字じゃん。暗算でもわかる赤字が確定してしょんぼりだが、いざ開店だ。
●外国人客で大繁盛
しばらく扉を開けるのは、本誌編集長など様子を見に来てくれたサクラばかりだったが、21時を回るころには、初の外国人観光客が来店。飲み物が足りなくなると、カウンターで仕事ができないママ自ら近所のコンビニに買いに行ったが、帰るたび、外国人のお客さんがどんどん増えているじゃないの。
この店のもともとの常連さんなど日本人客も加わり、一時は20人近くがすし詰め状態で酒を飲む、大繁盛店の様相に。でも喜んでばかりもいられない。客が増えれば注文も増えて、目の回るような忙しさ。「私もいただいていいかしら」なんて、ねだってる暇なんてありゃしない。
そうして最後のフィンランド人カップルの客を見送ったのが午前1時すぎ。鍵をかけて速攻着物を脱ぐ。いつもなら「あれー」とくるくる回るギャグのひとつもするところだが、そんな元気あるわけない。黙々と片づけて、夢のママ体験が終了した。
売り上げは3万数千円に上り、残った酒も夫に2千円で売りつけたが、追加の買い物が響き、結局3万円前後の赤字。まあ、ワンコインやノーチャージの価格設定など、シロウトゆえの失敗もあったけど、プロのママならここにチーママへの支払いなども加わるはず。クラブにしろ、スナックにしろ、自分の知り合いのママたちは、みんなケチな気がしていたが、ごめん。あれは営業努力だったのね。
そんなママ業へのリスペクトをしみじみと感じることになった、ゴールデン街職業体験。自分はやっぱりライター業、がんばることにします。(ライター・福光恵)
※AERA 2016年11月14日号