10月20日、声優の肝付兼太(きもつきかねた)さんが亡くなった。享年80。スネ夫、イヤミ、殿馬、じゃじゃまる……。数えきれない役柄を演じ、魂を吹き込んだ。
喜寿を超えたベテラン声優は、ツイッターでよく、ファンに呼びかけていた。最後のツイートは昨年10月。自身が主宰する劇団のワークショップの告知だった。
「(◯◯君の舞台)ミーは明日、見に行くざんす」「久しぶりに池袋で、麦のんでます。ズラー!」
ある時は「おそ松くん」のイヤミに、時に「ドカベン」の殿馬で。つぶやきをたどると、自身が演じたキャラクターたちと常にともにいた肝付さんの姿が浮かび上がる。
●とことん掘り下げた声
役者人生のスタートは、全盛期のラジオドラマから。1940年代、NHKやTBSなど、放送局が劇団を持ち、俳優や声優が多数輩出した。
テレビ時代に入ると、米ハリウッドから届く多くの映画が放送され、ラジオドラマの俳優たちは吹き替え役で引っ張りだこになった。
野沢那智といえばアラン・ドロン、山田康雄といえばクリント・イーストウッド、小池朝雄といえば「刑事コロンボ」というように、多くの有名声優には、“ハマり役”があった。だが、数多くのアニメキャラの声で知られる肝付さんには、意外にもそんな役がない。
「一度、俳優が演じた声をなぞるだけのようで、吹き替えはあまり好きではなかった」と漏らしていたとも伝えられる。
肝付さんが所属した81プロデュースの代表取締役社長、南沢道義さんは、
「肝付さんらしい話ですね」
と振り返る。
引き受けた役柄を真摯に掘り下げ、ふさわしい声を探した。甲高いハスキーボイスが印象に残る肝付さんだが、多くのキャラクターの中で、苦心したのが「銀河鉄道999」の車掌役だったという。何しろ相手は透明人間だ。表情がない。池田昌子さんのメーテル、野沢雅子さんの鉄郎とのやり取りはいつも淡々と。真面目で律儀な車掌像を作り上げた。
●親友だった「ジャイアン」