盛り土問題では、岸本氏を含め元市場長の多くが「知らなかった」と口をそろえるが、そんなことがあり得るのか。築地の移転問題を12年間取材してきたジャーナリストの池上正樹さんは、こう話す。

「中央卸売市場の技術職は、文系の上司のことを『わかっていない』と思っていたようだ。特に消えた盛り土担当の新市場整備部は秘密の多い部署だった」

 背景にあるのが、特異な人事システムだ。幹部や一般事務職員は2、3年で異動するのに対し、技術系職員は市場内での異動が多く、市場関係者や工事業者らと強固な関係を築くという。

●担当部署は「関東軍」

「都庁では、いつ誰がどこで決めているのか、ほとんどの職員が分からないまま上の指示に従っていることも多いそうです。新市場整備部の情報は他の部署にほとんど知らされず、周りから『あそこは(政府の方針を無視して独断で満州事変を起こし、中国侵略の道をひらいた)関東軍だ』と言われているくらいです」(池上さん)

 そんな「無責任体制」の最大の被害者が、移転問題に翻弄(ほんろう)される築地市場の業者だ。築地市場を25年近く取材している時事通信社水産部長の川本大吾さんは、こう話す。

「築地の業者はあきれている。都にこれほど不信感を持ったことはなく、今後、信頼を回復するには相当時間が必要でしょう」

 仲卸業者の男性は、

「更迭は当然。職員を辞めたわけじゃなく、処分が生ぬるい」

 と怒りが収まらない。

「量販店のバイヤーは『豊洲のものは買わない』と言っている。移転しても消費者がついてこないよ」(仲卸業者の男性)

 定着の前に、落ちた豊洲ブランド。食の安全が絡むだけに、復権の道は厳しそうだ。(編集部・山口亮子)

AERA 2016年10月31日号

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