アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はカゴメの「ニッポンの課長」を紹介する。
* * *
■カゴメ 農事業本部課長、いわき小名浜菜園社長 永田智靖(49)
ケチャップで有名なカゴメが扱っているのは、トマトの加工食品だけではない。生のトマトも作っている。2015年には国内シェアで3%弱に当たる約1.7万トンを出荷した。約40ある生産拠点の一つが、福島県のいわき小名浜菜園。コンピューターで温度や湿度、二酸化炭素(CO2)濃度、養液を管理する、アジア最大級の温室トマト栽培施設だ。カゴメでは課長の永田智靖は、小名浜菜園に出向して社長を務める。
トマトは気候などで日ごとに状態が変わる。対応が遅れれば病気が発生したり、成長が止まったりしかねない。最新ハイテク施設のこの菜園でも最後は、人間の経験と感覚が頼りだ。
「『トマトと対話できる人材』を育てることが、自分の役目」
だから、最繁忙期の6月には派遣も含めて250人にもなるスタッフに対して、いちいち問題点を指摘することは避け、やる気を伸ばすことを心がけている。
神戸大学農学部でトマトの追熟(収穫後に完熟させること)を研究し、1990年にカゴメ入社。98年に生鮮野菜事業部ができると、翌年そこに加わった。和歌山市の加太菜園の代表取締役を経て14年、小名浜菜園へ来た。
「栽培が楽しい」というシンプルな情熱に突き動かされた学生時代以来30年、振り向けばいつもトマトがあった。ストレス解消法も、東京で暮らす妻と2人の子どもに休日に会うことに加えて、「トマトを食べること」。1日平均5個は食べる。
東京ドーム2個分の広さを誇る小名浜菜園の建設には、100人を超える地権者の理解があったと思う。だからこそ、「地元に貢献し、日本のトマト作りを世界レベルの産業にしたい。『きれいごと』と言われるかもしれないけど、そのきれいごとを描ききりたい」と言い切る。
厳しくなれないことが弱点と自己分析するように、語り口は穏やか。だが、胸中は情熱の赤で輝いている。
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・安楽由紀子)
※AERA 2016年6月27日号