年収1千万円、2千万円は当たり前。病院を白衣で闊歩し、先生と呼ばれ、地位も名誉も保証された夢の職業、医師。しかしその声を集めると、専門科ごとに少なからぬ格差があった。
度を超えたハードワークだ。毎朝8時に病院に出勤し、患者の診断や治療法について話し合う「カンファレンス」に備える。日中は診療や手術に追われ、夜は会議や自身の研究、論文執筆、学生の指導にあてる。退勤時間は午前2時。平日の4日間、一日18時間労働をこなしている。残る平日の1日と土曜の午前は、外勤として違う病院で働き、休日は土曜午後と日曜日のみ。
これが、東京都内にある有名私立大学病院の外科に勤めるAさん(40代・男性)の日常だ。准教授という役職にあるが、正規の月間給与は額面で約45万円にすぎない。
正規の給与を、一般に「アルバイト」と呼ばれるほかの病院での外勤で補う。1コマ半日勤務で5万円、週に3コマをこなせば、15万円ほどの収入になる。
「学会や勉強会があれば、外勤には行けません。外勤で月に40万~50万円入ればいいほうです」
現在の年収は1400万円程度。世間から見れば十分な高収入だが、医師の年収からすると、決して高い額ではない。しかも、これだけの重労働を続けてだ。
少子高齢化や医療制度の変革を受け、医療界は揺れている。医師たちは今、何を考え、どのように働いているのか。AERAは9月初め、医師専用コミュニティーサイト「MedPeer(メドピア)」の協力のもと、現役医師にアンケートを実施し、医師の実態を探った。回答を寄せたのは、20代から60代までの全国の現役医師545人。30代から50代がボリュームゾーンだ。
●半数は「収入に満足」
今回のアンケートによると、開業医、勤務医とも年収1500万円以上が半数を超える。
「給与が安すぎる」(30代・内科・勤務医)、「経営不振で常に恐怖」(50代・眼科・開業医)という声もあるが、半数近くが現在の収入に「ある程度満足している」「満足している」と答えた。
もちろん、内容は一様ではない。勤務医と開業医で比較すると、よく言われるように、勤務医より開業医が高い傾向にあった。年収2千万円以上の割合は勤務医が21%なのに対し、開業医は34%を占める。
専門科による差もある。勤務医の中で比較すると、年収1500万円以上の割合は産婦人科では6割超、外科でも6割近くを占めるが、眼科では3割に満たない。
また、全体でみると、収入1千万円未満の医師も全体の18%、600万円以下も5%いる。
前出のAさんは、今回のアンケート結果から考えれば、平均収入以下ということになる。では、医師としての実績に乏しいかというと反対で、専門分野の臨床と研究の最先端に立っている。腹腔鏡技術を用いた手術も多数行うなど、日本でトップクラスの実力を持つ医師の一人だ。
積んだキャリアに後悔はない。「専門分野は一通りこなせるので、自分の腕でいつでもどこへでも行ける」との自負もある。ただ、実績や地位とかけ離れた形で収入が決まる現状には、不満だ。
「はやっている開業医ならいざ知らず、勤務医は2千万円稼げればいいほう。特に、大学病院の給与は総じて高くない。私大病院が国立大学病院より安い理由は、経営を考えねばならず、人件費が削りやすいからでしょう。労働時間と社会貢献度を考えれば、正直、5千万円は欲しいところ」(Aさん)
●病院はコンビニじゃない
日本の医療システムの構造そのものに、問題意識を持つ医師も少なくない。
研修1年目のBさん(25・男性)もその一人だ。