「事態は、どんどん悪化するばかりだ。彼らが入国するのをやめさせるんだ」
ラハミ容疑者を、トランプ氏が強制送還すると公約している「不法移民」とみなしているような発言だ。しかし、ラハミ容疑者は幼いころ家族とともに移住しており、今回の事件は「米市民の過激化」とみられる。数年前から、アフガニスタンやパキスタンに渡航しており、友人の一人は、ラハミ容疑者が長いチュニックとサンダルなど伝統的な服装をまとい始め、「以前の彼とはかけ離れて、考えられないほど宗教に入れ込んだ」とメディアに語っている。
ラハミ容疑者は、ニュージャージー州できょうだいと経営していたフライドチキン店が、騒音などを理由に近隣住民から訴えられると、「住民による人種差別」と応酬し、逆訴訟を起こした。父親のモハメド氏はメディアに対し、ラハミ容疑者がきょうだいを刃物で襲ったため、2年前、FBIに通報したと語った。FBIには、過激派と関係する人物と会っている懸念も伝えたという。
しかし、FBIは、取り調べの末、「シロ」とみなし、この2年間は追跡していなかった。
欧州で続いたテロと異なり、「イスラム国」(IS)など海外のテロ組織から犯行声明は出なかった。パイプ爆弾も圧力鍋爆弾も、殺傷能力は限定的で、仕掛けられた場所も、世界貿易センタービルや国連本部周辺に比べれば、人通りは少ない場所だった。
こうした「ホームグロウン(国内育ち)」のテロリスト予備軍を防ぐことは、極めて難しい。ISなどがオンラインで発信する情報に勝手に共感しているだけで、テロ組織からは正式に「ミリタント(兵士)」とはみなされていないからだ。
トランプ氏は「強制送還」「メキシコとの国境に壁」といった公約で、市民の移民に対する恐怖を煽(あお)っているが、「水際」で抑えるより「内側」からのテロをどう防ぐかが問われている。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2016年10月3日号