【AERA 2016年4月4日号より 年齢も掲載当時のまま】
障がいがあることは、アスリートたちにとって何の「障害」でもなかった。肉体を鍛え、理論を理解し、技を磨く。彼らの「戦い」を取材した。
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テニスと車いすテニス。
コートもネットもボールも同じで、ルールも車いすテニスにツーバウンドが認められている以外、ほぼ同じだ。最大の違いは、プレーヤーが車いすに乗っているかどうか。車いすテニスには、車いすによって引き出された「スポーツとしての新たな面白さ」がある。
●3手先を読んで勝利
選手はボールを打ち込んだ次の瞬間、両手で車いすを操作して移動を始める。サイドステップはできない。後ろに下がるには相手に背を向けなければならないこともある。一般のテニスと比べて「取れないエリア」が広いからこそ、相手の動きや返球を予測して将棋のように2手先、3手先を読むことが勝利につながる。
上地結衣(21)は言う。
「ロンドンの頃まで、自分のプレーだけに集中することが重要だと思っていました。でも、それだと周囲が見えなくなる。冷静に相手を見て、崩して、自分のテニスに持ってくることが大事だとわかってきました」
勝敗の鍵を握るのも車いす。国枝慎吾(32)や上地の車いすを製造するオーエックスエンジニアリング(千葉市)の安大輔は言う。
「1ミリ単位の調整がプレーに影響します」
安は15年春、国枝の要望で座面を5センチ上げた。打点は上がるが、低いボールが拾えなくなり、車いすの車輪に手が届く範囲も狭くなってスピードや瞬発力が落ちた。試行錯誤の結果、上げる高さは7ミリに落ち着いたという。
車いすバスケットボールも、車いすテニス同様、一般のバスケに車いす操作が加わっただけで、別の面白さがある。まず目を奪われるのは、選手たちのシュート力。車いすに座った状態で放ったシュートが一般と同じ高さのゴールリングに次々に吸い込まれる。
選手たちには障がいに応じて持ち点が与えられ、コートに立つ5人の合計は14点以内でなければならない。エースばかりでなく、障がいの重い選手の働きが勝敗の鍵を握る。敵をブロックしてエースが通る道を確保し、得点をアシストするなど、チームプレーは一般のバスケ以上の見応えだ。