【AERA 2016年4月4日号より 年齢も掲載当時のまま】
障がいがあることは、アスリートたちにとって何の「障害」でもなかった。肉体を鍛え、理論を理解し、技を磨く。彼らの「戦い」を取材した。
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正木健人(28)は、視覚障がい者柔道のロンドン・パラリンピック金メダリスト。生まれつきの弱視だが、それをハンディだと感じたことはなかった。自分に見えている視界が「正常」だと思っていたから。
一般の柔道から転向して半年後に初めて臨んだ視覚障がい者柔道の大会が世界大会。オール一本勝ちで金メダルを手にした。一般の柔道では、相手よりも有利な組み手を取るために多くの時間が割かれるが、視覚障がい者柔道は「組んだ状態」から試合が始まる。弱視で苦労していた組み手から解放された。
「いつでも技がかけられ、本当の力と力の勝負ができる。それがすごくうれしかった」
これまでハンディを背負っていたのだと、初めて気づいた。
柔道を始めたのは中学校時代。全国で2位になった。兵庫・育英高校時代はインターハイ3位。名門・天理大学に進学すると、篠原信一らの指導を受けた。いわば柔道エリート。だが、弱視で警察官の夢が絶たれ、進路に悩んでいた。
そんなとき、柔道部の監督からバルセロナ・パラ金メダリストの高垣治を紹介される。正木は、高垣が勤めていた盲学校であん摩マッサージ師の国家資格の勉強をしながら、パラリンピックを目指し、ロンドンの金にたどり着いた。
ロンドン以降、正木の柔道は研究され、簡単に勝てなくなった。国際大会でも2位、3位に終わっている。リオでは再び挑戦者として臨むつもりだ。
「金メダルを取って、夢に向かって努力できるのは幸せなことだと気づいた。リオでは、日本のお家芸である柔道で、もう一度金メダルを取りたい」
●視覚以外を研ぎ澄ませ
リオで連覇を狙うのは、ゴールボール女子も一緒だ。
「クワイエット・プリーズ」
審判の合図に会場が静まり返る。視覚障がいの選手が出場し、3対3で対戦するゴールボールは、鈴の入ったバスケットボール大の球を投げ合い、サッカーゴールを小さくしたようなゴールを狙う。音や感触など視覚以外を頼りに感覚を研ぎ澄ませ、空間認知能力や相手の狙いを読む力なども駆使する。
攻撃では鈴が鳴らないようにボールを投げたり、相手に気づかれないように他の選手にボールを渡したりする駆け引きもある。ロンドン・パラ金メダルの立役者、安達阿記子(32)は、競技についてこう話す。
「見えないからこそ、音を使ったりタイミングをずらしたりする。心理戦が一番の魅力」
女子代表は、15年11月に開かれたアジア・パシフィック選手権で、予選の中国戦で早い段階で失点を重ねた反省から、守備の位置取りを修正。決勝では逆に早い段階で得点でき、勝利してリオへの切符を手にした。
「ディフェンスをさらに強化し、もう一度頂点に立ちたい」(安達)
(文中敬称略)
(編集部・深澤友紀)
※AERA 2016年4月4日号