阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震……。数々の大震災に続き、危機が迫っているのが首都直下地震だ。過度な人口密集地域であり、大量の帰宅困難者も予想される。東京だからこそ被害が拡大する恐れがある。
朝のラッシュ時、ランドセルを背負った小さな子どもたちが大人に交じって電車に乗っている。その姿を見かけると、大佛俊泰・東京工業大学教授は心配になるという。
「子どもたちが今、地震で駅から放り出されたら、親も先生もいない。誰が守ってやれるのだろう」
通勤通学の途中や、買い物で外出中など、会社や学校、自宅などから離れたところで地震と遭遇するのは、帰宅困難の中でも最悪の状況だ。大佛教授のシミュレーションによると、通勤通学時間帯の朝8時に首都直下地震が起きれば、こんな事態に陥る人たちが約200万人発生する。
東京都は2013年に帰宅困難者対策条例を施行し、一斉帰宅を抑制することや、企業に従業員の3日分の水、食料、簡易トイレなどの備蓄をすることを求めている。難しいのは通勤中、外出中などの人たち。都は一時的に避難する場所を必要とする人が92万人発生すると予想し、都の施設や民間企業のエントランスホールなどを一時滞在施設にして収容する計画だ。ただし確保されているのは25万5千人分。66万人の人たちは、行き場がない。
1日364万人と、世界一の乗降客数を誇るターミナル新宿駅では、こんな帰宅困難者が約5万人発生すると予測されている。西口からは中央公園、東口からは新宿御苑にいったん退避してもらい、それから一時退避施設に移動してもらうルールを決めている。
●損害賠償責任も妨げ
ただし、一時滞在施設として協定を結んでいる施設は1万人分しかなく、残り4万人の行く先はめどが立っていない。新宿区の鯨井庸司危機管理課長は言う。
「駅周辺の民間施設に、自主的に受け入れてもらうのをあてにするしかない」
東日本大震災の時は、小中学校などの施設も一部開放して帰宅困難者を受け入れたが、首都直下地震では、そこは地域住民の避難所となるため、あまり期待できない。新宿区は02年に新宿駅周辺の民間会社や大学、区などが協議会をつくって帰宅困難者対策を進めてきた「先進地」だが、それでもまだ、この状況である。