圧死などの直接死以外の原因で亡くなる「震災関連死」。精神的ショックと過酷な避難生活によって高まるリスクに注意が喚起されている。
「震災関連死」という言葉は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災をきっかけに生まれた。
「避難所からの入院患者さんで、死亡された方はいますか?」
上田耕蔵医師(神戸協同病院院長)は、被災地を取材する新聞記者から何度も質問を受けたのを覚えている。当時は、震災で倒壊した建物による圧死、出火による焼死など「直接死」の概念しかなかった。
しかし退院患者リストを調べると、普段より死亡が増えていた。震災以降の全入院患者のデータベースを作り分析。たいした外傷も負わずに助かったのに、過酷な避難所生活で衰弱し、死に至っている高齢者が想像以上にいることが判明した。上田医師らは「地震後のストレス・生活環境の悪化が原因・誘因」「がん末期など終末期を除く、死亡につながる疾患群」という二つの定義から「震災後関連疾患(震災関連死)」と名付けた。
●エコノミー症候群も
上田医師によれば、震災関連死の発生機序は次の通りだ。
震災による精神的ショックと過酷な避難生活が交感神経を緊張させ、血圧が上昇。脱水も加わり、血液粘度が増して血液の塊(血栓)ができ、脳卒中・心筋梗塞を起こしやすくなる。
「トイレが使いにくいため水分を控える」「水や食料を十分に取れない」といった状況からいっそう脱水に陥りやすく、ストレス過多で心不全が増す。免疫力が低下し、感染症、肺炎のリスクが高まる。
阪神・淡路大震災ではインフルエンザ関連の肺炎による死者が最も多かったが、2004年の新潟県中越地震では車中泊などによる肺塞栓症(エコノミークラス症候群)が初めて報告された。長時間同じ姿勢を保つことで下肢にできた血栓が肺動脈に飛んで詰まり、最悪の場合、死に至る。高齢者に限らず中年でも見られる。また、東日本大震災では長期間ライフラインが停止し、震災関連死が拡大。発生場所として最も多かったのは、「自宅等」だった。
一方、熊本地震では、行政やボランティアのいち早い対応で肺塞栓症の死者は少なかったものの、震災関連死を減らすのに不可欠な要介護高齢者の保護や、大規模避難所での福祉スペース開設は遅れたと上田医師は見ている。