●九つの予防策
自分たちでできることとして、押さえておくべきことは何か? 日本循環器学会、日本心臓病学会、日本高血圧学会は、これまでの震災を通して得た多くのエビデンスから、九つの予防策を提唱。具体的には(1)睡眠の改善(2)1日20分以上の歩行(3)水分の十分な摂取による血栓予防(4)良質な食事。減塩に努め、カリウムの多い食事を多くとる(5)震災前からの体重の増減はプラスマイナス2キロ以内(6)マスクの着用、手洗いの励行など感染症の予防(7)降圧薬やその他の循環器疾患の内服薬の継続(8)血圧の管理(9)禁煙、だ。
正直なところ、現実的には難しいと思える項目も少なくない。それを踏まえた上で、それでも「いずれも脳卒中・心筋梗塞の予防には欠かせない。できることはやったほうがいい」と東京都健康長寿医療センター循環器内科の桑島巌医師。中でも(2)と(3)は「予防できる震災関連死」といわれる肺塞栓症の回避につながるので、念頭に置きたい。また、肺塞栓症と並んで震災関連死の要因として注目されている「たこつぼ型心筋症」は、過剰なストレスが引き金になる。実際は極めて困難な課題であるが、少しでもストレスを発散できるよう適度に体を動かすなどの対策が求められる。
池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師(日本呼吸器学会専門医)は、口腔ケアの重要性を強調する。インフルエンザなどの感染症のリスクを下げるとともに、震災関連死と切っても切れない肺炎の予防になるからだ。
肺炎は日本人の死因の第3位にも上るほど、死に直結しやすい疾患。口腔ケアが十分でない場合、雑菌の多い唾液(だえき)を誤嚥(ごえん)して誤嚥性肺炎を生じる。歯磨きなどで口腔内の細菌を減らすことが、予防策になる。
「高齢者に多いですが、動脈硬化が進行している人は中年でも発症しやすい。脳梗塞を過去に起こしたことがある、高血圧や喫煙習慣がある、という人は要注意です」(大谷医師)