パリ・オペラ座バレエ団のエトワールたちが東京に集結する「エトワール・ガラ」。5回目となる今年の公演を前に、企画者の一人であるバンジャマン・ペッシュさんが来日。
バレエをこよなく愛する神田うのさんが話を聞いた。
神田:バレエはやっぱりフランスです。なんて言ったら、英国のバレエ団に怒られちゃうかもしれないけど(笑)。パリ・オペラ座は特に、美しさと繊細さがとても洗練されています。
ペッシュ:おっしゃる通り、オペラ座は洗練、エレガンスが特長です。さらに付け加えるとしたら、一目でわかるスタイルを持っている。統一性があると言ったらよいでしょうか。
いろんな人がいろんな作品を踊っているんですが、全体を見た時に一つの流派の存在というものが確固として感じられる。これは、バレエ学校を持っているからです。同じ学校で教育を受け、同じ経過を経てバレエ団に入る。統一性から生まれるコール・ド・バレエ(群舞)の力は、同じ空気を吸ってきたというのが一つの理由なんだと思います。
神田:みんなで白くなれるのがオペラ座。色を入れようとすればまた、色もきちんと入る。
ペッシュ:それが私たちのカンパニーの力だと思います。
神田:「エトワール・ガラ」はペッシュさんをはじめ、パリ・オペラ座のエトワールたちが東京に集まって、すばらしいバレエをみせてくれる贅沢なプログラム。全幕ものではなく、「これが見たい!」という作品や場面を見られる“いいとこ取り”ですよね。
ペッシュ:僕は2005年の初回からアーティスティック・オーガナイザーとしてかかわってきましたが、ここでは参加者全員で進めていくことを大事にしています。つまり、僕自身がやりたいことと、みんながやりたいことをすり合わせていく。ダンサーたちが踊りたい作品を組み入れながら、構成していくことが特徴です。
●日本人の「目」を共有
神田:今年は「伝統といま」がテーマだと伺っています。
ペッシュ:「ネオ・クラシックスタイル」を打ち出しました。例えば、偉大な振付家ローラン・プティ、残念ながら昨年亡くなった偉大なダンサー、マイヤ・プリセツカヤ。「病める薔薇」は二人へのオマージュです。
ネオ・クラシックのスタイルが現代の若い振付家にどう受け継がれているのかもご紹介します。プティほか、ジョン・ノイマイヤー、ルドルフ・ヌレエフといった歴史的な振付家たちにインスパイアされた若い世代の振付家たちの作品は、日本初演。歴史的なダンスだけではなく、未来につながる才能を、ダンスを非常によくわかってくださっている日本のみなさんにご覧にいれたいのです。
神田:「伝統と未来の融合」ですね。日本初演の「See」は、日本人の大石裕香さんの振り付けです。
ペッシュ:日本人振付家の作品は上演したことがなかったので、初の試みです。日本人がヨーロッパのダンサーを振り付けるのですから、日本人の目を通したビジョンを共有できる機会になります。
神田:日本人の観客にはとても興味深いと思います。モーリス・ベジャールさんが日本人ダンサーに振り付けた「ザ・カブキ」のような作品はありましたが、その逆パターンですものね。
ペッシュ:日本人のピアニスト久山亮子さんも参加するんですよ。ガラ公演は美術と音楽に少し制約がありますが、視覚でも聴覚でも楽しんでいただきたい。だから音楽はライブ演奏もできるだけ入れたいのです。ダンスは音楽とともにあるものなので、生の演奏で踊ることでダンスも生き生きしますし、新しい生命も宿ると思っています。