アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は国立天文台の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■国立天文台 野辺山宇宙電波観測所 助教、システムマネジャー 南谷哲宏(37)
まるで月を思い起こさせるような、圧倒的な存在感だった。
アンテナの直径45メートル、重さ約700トン。国立天文台野辺山宇宙電波観測所(長野県)にある「45m電波望遠鏡」は、世界で初めてブラックホールの存在を証明した望遠鏡だ。光学望遠鏡が星などの光をとらえるのに対し、電波望遠鏡は、宇宙に漂うガスやちり(星間物質)から放たれる電波を受信して観測する。
この電波望遠鏡での観測にあたり、10人ほどのチームを率いて、受信機などの保守や運用に加え、新しい観測装置の開発などを統括するのが南谷哲宏だ。最近では、従来より4倍以上、観測効率がよい観測装置「FOREST」の開発を手掛けた。
「本格的な運用はこれからですが、世界的に見ても、非常に感度のいい受信機です」
宇宙に興味を持ったのは、物理学を学んでいた名古屋大学時代。卒業研究を選ぶとき、星の誕生をとても楽しそうに話す教授との出会いがきっかけだった。
「その研究室では、観測装置の開発もできたんです。それで、電波天文学の研究の道に入りました」
そのまま大学院に進み、理学研究科素粒子宇宙物理学専攻を修了。北海道大学で教鞭を執りながら研究を続け、2013年7月から野辺山宇宙電波観測所に籍を置いている。
観測所では、年間2千時間を世界の天文学者の観測時間として提供しているので、彼らが滞りなく観測できるような環境を整えることも南谷の重要な仕事の一つ。また自身も、天の川にある一酸化炭素分子の電波を観測中だ。
「宇宙には、さまざまな重さの星があるのですが、その重さの違いがどうやって生まれるのかを解明したいと思っています。それが分かると、私たちの住んでいる天の川銀河がどうやってできたのか、これからどうなっていくのかを解き明かすカギになると思う」
星の話をするとき、南谷の目は一層輝いていた。
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・大川恵実)
※AERA 2016年2月8日号